松永和紀(科学ジャーナリスト)

 最近、週刊誌がまたもや、「食が危ない」という記事を量産しています。食の安全取材歴20年近い私としては、周期的にやってくるこの“ブーム”にはもううんざり。今回は、中国産批判を繰り広げる「週刊文春」と、国産が危ないとする「週刊新潮」の対決の様相を示しているのが興味深いところです。

 ところが、消費者側の反応がどうもこれまでと異なります。従来だと、食品メーカーのお客様相談室に抗議の電話が鳴り響き、生協にも問い合わせが相次いでいました。今回、企業や生協、業界団体等に尋ねて回ったのですが、抗議はもとより、問い合わせもほとんどなく、あったとしても、週刊誌の書いていることと実態との違いをきちんと説明すると、わかってもらえる、といいます。もちろん、売れ行きにも影響がありません。

 なぜ、これまでと異なるのか? どうも複合的な理由があるようです。取材を通じて考えてみました。
「中国産たたき」「食品添加物たたき」はこれまでも定期的に行なわれてきたが、今回は消費者の反応がどうも異なるようだ
「中国産たたき」「食品添加物たたき」はこれまでも定期的に行なわれてきたが、今回は消費者の反応がどうも異なるようだ
 まずは、週刊誌がどのような報道をしているか、少し見てみましょう。

 週刊文春は、4月12日号から4回にわたり、「危ない中国食品2018」と報道し、「産地隠しが巧妙化している」とも訴えています。

 中国産批判は同誌恒例。手法も従来通り。中国産で違反が相次いでいる、と厚労省の輸入検疫の結果をリスト化。危ない食品がこんなに入っている、と見せて、読者はその数と種類の多様さに圧倒されて嘆息する、という仕掛けです。

 残念ながら、これはトリックです。たしかに、中国産の違反数は多い。しかし、中国産は、輸入件数が他国に比べて際立って多く、全体の32%に上ります。2位のアメリカ10%、3位フランス9%を大きく引き離し、年間に約70万件もの輸入届出があるのです(2016年度厚生労働省統計)。

 したがって、違反数は多いのですが、違反割合はそうでもありません。中国の違反率は0.024%、各国平均は0.033%で、中国はむしろ低いのです。

 中国産食品、私たちは食べていないつもりでもさんざんお世話になっています。居酒屋で出てくるほうれんそうのお浸しや里芋の煮物の多くは中国産冷凍野菜。回転寿司のネタは、一貫ごとにスライスされ包装されて輸入されます。高齢者施設で欠かせない「骨のない魚」は、中国の工場でピンセットを用い細かい骨を抜いたうえで入ってきます。

 人は雑菌だらけ、髪の毛なども落ちるので、人が手をかけるほど違反リスクは高まります。細かな手作業を要する品目が多いのに低い違反率、というのは、実はなかなかたいしたものです。
(厚生労働省輸入食品監視統計より作成)
(厚生労働省輸入食品監視統計より作成)
 十数年前、中国からの輸入が急増し始めた時期、たしかに中国産は問題山積で、冷凍ほうれんそうの農薬高濃度残留が発覚し、餃子に農薬が混入される事件もありました。これらを教訓に、現在では中国政府の国家質量監督検験検疫総局が監視を行い、日本への輸出は許可制に。日本の商社なども多くが社員を常駐させ、指導や監視をしています。中国産の品質は飛躍的に向上しました。
中国の日本向け冷凍野菜工場。衛生管理は日本の工場よりも上だった。日本の商社が厳しく指導し、原材料として使用する食品メーカーがたびたび監査・点検に訪れる
中国の日本向け冷凍野菜工場。衛生管理は日本の工場よりも上だった。日本の商社が厳しく指導し、原材料として使用する食品メーカーがたびたび監査・点検に訪れる
 国際社会で体面を重んじる中国政府が目を光らせ、日本の商社や中国産を原料とする食品メーカーも問題が起きたら、世間から「まだ中国産を使っているのか!」と他国産の違反より著しく厳しく非難されるので、そうならないように必死です。中国で作られるピンからキリまでの食品のうちのピン的存在が、日本に輸出されています。日本の食品関係者は、他国産よりむしろ、中国産を信頼できるのではないか、と言います。私も中国で日本向けの食品を作る工場をいくつも見ていますが、印象はおなじです。

 それが日本向けの中国産のすべて、とは言えません。どの世界にも例外があり不届き者もいる以上、質や衛生管理の悪い食品はあるでしょう。週刊文春は、日本向けの食品がいかにずさんな衛生管理をしているかもリポートしています。しかし、日本向けの食品全部がその調子ではありません。