ずさんな中国産が輸入される陰には必ず、一時的に儲かればいい、という日本の輸入業者や、品質が悪くても安ければいいと原料を求める日本の悪質な業者がいます。中国だけに責任を負わす記事の印象操作は、アンフェアです。

 では、週刊新潮が書くように「国産食品」は危ないのか?

 国産=安全ではないのは事実です。同誌は書いていませんが、日本の中小事業者の中には衛生管理のレベルの低い企業が少なくありません。そもそも、衛生管理の国際標準であるHACCPは欧米では義務化が進んでいて、中国でも輸出を手がける工場は当然のごとく導入されています。国内でも、大手企業は取り組んでいますが、欧米のように中小企業やまちの飲食店まで、とはなっていません。今国会でやっと、HACCPを原則として義務付ける改正食品衛生法が成立した段階です。

 しかし、週刊新潮が書く食品添加物やトランス脂肪酸のリスク指摘は、相当に的外れです。食品添加物について、記事は次のように書きます。

野本氏が警告を発するのは、この物質と保存料のソルビン酸の組み合わせである。「亜硝酸Naとソルビン酸の組み合わせには、相乗毒性があることが分かっています」(中略)
実際、内閣府の「食品安全委員会」の添加物評価書にはこんな記述が。

<ソルビン酸が広範に使用される一方、亜硝酸塩も食肉製品の発色剤として多用され、両者がしばしば共存するという事実と、両者の加熱試験反応によりDNA損傷物質が産生されることが報告されている>
<マウスへのソルビン酸単独(15 mg/kg 体重/日)の30日間経口投与による染色体異常試験において、最終投与後24時間後に染色体異常は有意に増加しないが、亜硝酸ナトリウム単独(2 mg/kg 体重/日)で有意に増加し、ソルビン酸と亜硝酸ナトリウム同時(7.5+1 mg/kg 体重/日)ではさらに増加している>


 つまりは、ジャーナリストが相乗毒性を指摘し、公的機関も危険を指摘しているのに……という文脈です。

 しかし、これは食品安全委員会の評価書のごく一部の抜き出しです。評価書はこの後に、DNA損傷物質が産生するのは、通常の食品の条件と異なる場合であることや複数の試験結果で矛盾があることなどから、結論として通常条件下での使用では、ヒトの健康に対する悪影響はないという趣旨を明記しています。
食品安全委員会の添加物評価書「ソルビン酸カルシウム」P19 後半、特殊な実験条件下では起きても、食品中での共存で実際に形成されることは意味しない、と説明があるが、記事は後半は引用しなかった。
食品安全委員会の添加物評価書「ソルビン酸カルシウム」P19 後半、特殊な実験条件下では起きても、食品中での共存で実際に形成されることは意味しない、と説明があるが、記事は後半は引用しなかった。
 自分たちにとって都合の良い文脈だけを抜き出してストーリーを組み立てる。科学では絶対にやってはいけないことであり、ジャーナリズムとしても許されません。週刊新潮のこのシリーズ記事を受けて、食品安全委員会はFacebookで3回にわたって、「評価書全体を読むように」と指摘しています。

 実は、このシリーズが始まる前に私のところにも週刊新潮編集部から電話がかかってきて取材されました。最初は、食品添加物の規制がリスクアナリシスに基づいて行われていることなどを平易に説明しようとしたのですが、あまりにも知識不足で初歩的なことばかり聞かれるので閉口しました。

 もしかすると、彼らは食品安全委員会の評価書の意味をよく理解できぬまま引用しているのではないか、とすら思います。うま味調味料による味覚障害の可能性やトランス脂肪酸のリスクについても記事化されていますが、一事が万事、この調子で、記事は科学的ではありません。彼らにとって都合の良い部分のみを抜き出して、「危ない食品リスト」を並べる手法。ただひたすらに、国内の加工食品を誹謗中傷しているようにしか、私には思えません。

 こんな酷い内容の記事、企業として抗議するべきではありませんか? 最初はそう考えました。週刊文春、新潮を見て、追随する週刊誌も出てきています。また、食べてはいけないブームが来た? いやになります。

 でも、企業の人たちに話を聞いて考えが変わりました。「だって、お客様相談室に電話がかかってこないんですよ。消費者が、記事に踊らされなくなっているんです」とどの社も異口同音に言います。

 たとえば、週刊新潮に「味覚破壊トリオ商品」として名指しされたメーカーには、記事後の消費者からの問い合わせはわずか2件。もっと派手に、社名と商品名を繰り返し掲載され、2週にわたって批判された食品メーカーであっても、お客様相談室への電話は50件超。事業規模、記事での取り上げられ方の執拗さを考えると、非常に少ないと言って良い。しかも、記事を真に受けた「もう食べない」とか「食べて大丈夫か」という批判・質問ばかりではなく、「記事に抗議すべきだ」「放送で反論したらどうか」というような意見もあったそうです。

 以前なら、記事が出ると企業には抗議が殺到。電話で1時間でも2時間でも粘って罵詈雑言浴びせかけ、お客様相談室の担当者のメンタルがやられてしまった、なんて話がごろごろありました。今回はまったく違います。