杉山崇(神奈川大人間科学部教授)

 韓国における反日感情は長く日韓関係の懸念材料になっています。一般的に、心理学者は政治や外交の問題を語らないものです。ただ、時には反日姿勢の背景に心理学要因が垣間見えることもあります。

 特に、韓国の地方議会で提出された、「日本の戦犯企業が生産した製品です」と明示したステッカーの添付を学校に義務付ける案には、心理学的な要因を強く感じてしまいます。本稿では、心理学者としてはちょっとした冒険をするつもりで、「戦犯企業ステッカー」問題を考えてみたいと思います。

 最初に、何が起こったのか整理をしてみましょう。ことの舞台はソウル近郊の京畿道(キョンギド)議会で、道内の小中、高校に置かれている「メイド・イン・ジャパン」の備品に上記のステッカーを張り付けさせるという条例が議論されています。背景にある、いわゆる「徴用工問題」などについては今回割愛しますが、この条例案には韓国国内からも慎重論や批判の声が上がっています。

 韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相は慎重派です。韓国の主要紙の社説でも批判論調が目立っており、東亜日報は「時代錯誤的な発想と言わざるを得ない」との見解を発表しています。どうやら、韓国の識者も行き過ぎた姿勢だと感じたようです。

 「思わぬ」反響のせいか、審議が保留となりましたが、同様の提案は他でもあり、ソウル市議会でも「日本製品不買条例」が発議されそうになりました。何が地方議会を行き過ぎた案に導いたのでしょうか。筆者には「コーシャスシフト」と「リスキーシフト」、そして人のある本能が影響しているように見えました。

 まず、コーシャスシフトとリスキーシフトについてご紹介しましょう。どちらも会議で見られやすい現象で、両現象を合わせて「集団極性化」とも呼ばれています。

 突然ですが、あなたは一人で考えるときとみんなで考えるときと、どちらがより良い案を見いだせると思いますか。ことわざでは「三人寄れば文殊の知恵」といわれています。

 「みんなで考えると妙案が出てくる」と思う方も多いかもしれません。しかし、実際の会議では「どうしてこうなった?」と思ってしまうような奇想天外な案が出てきたこと、あなたの身の回りにもないでしょうか。
2019年1月、河野外相(手前)と会談する韓国の康京和外相=スイス・ダボス(共同)
2019年1月、河野外相(手前)と会談する韓国の康京和外相=スイス・ダボス(共同)
 実は、会議とは集団の力学によって「行き過ぎた意見」に集約しやすい場なのです。会議には「社会的促進」と言われる効果があり、社会的刺激への感度がいい個人を高揚させて張り切らせることがあります。

 政治家は公人であり、選挙という社会的競争で選ばれています。感度のベクトルや種類に個人差がありますが、社会に対する感度は相対的に高い方が多いことでしょう。議会は社会的促進が起こりやすい場であり、言い換えれば「インパクトのある意見を言わなければ」と個人を駆り立てやすい場だと言えるでしょう。