中国の台頭で揺らぐ、韓国の米国観


 韓国人の米国観は2010年を前後した時期から、再び変わり始めたように思われる。契機は、中国の台頭である。

 韓国の民間シンクタンクである峨山政策研究院が2014年3月に行った世論調査を見てみよう。この調査では、政治と経済それぞれについて「いま最も影響力のある国」と「今後、最も影響力を持つ国」を聞いている。

 「いま最も影響力のある国」では、米国が政治で81.8%、経済で64.7%。中国がそれぞれ、5.2%と25.2%だった。これが「今後」になると、政治は、米国が44.8%、中国が39.3%となり、統計的には誤差の範囲内。経済は、中国が66.7%、米国が22%と完全に逆転した。調査報告書は「多くの韓国人が今もなお米国に高い支持と信頼を寄せているが、中国がこれから進む方向によって韓国人の心が中国の側に傾く余地もなくはないように見える」と評価した。

 米国のオバマ大統領は同年4月に訪韓した際、韓国紙・中央日報との書面インタビューで、「地理的条件と歴史を考慮すれば、韓国と中国が経済協力を増やしていくことは、おかしなことではない」という考えを示した上で、「ただし、韓国の安全保障と繁栄を守ることができる基盤は米国だ」とくぎを刺したうえ、「米国は世界で唯一の超大国だ」と強調した。

 中国の台頭を受けて、米中両国をてんびんにかけるかのような議論が出始めた韓国への強い警告だった。同紙のワシントン総局長は、「オバマの直接的警告」と題したコラムで、中国に接近しすぎる韓国への不満が米国に強まっていることが背景にあると指摘した。

ミサイル防衛で試される米韓同盟


 今年2月4日、ソウルの韓国国防省で開かれた中韓国防相会談で、中国の常万全国防相が事前調整になかった話を始めた。在韓米軍への終末高高度防衛(THAAD)ミサイル配備に「憂慮」を表明したのだ。

 THAADは、在韓米軍基地への配備が検討されているミサイル防衛(MD)システムだ。北朝鮮の脅威に対応するためのものだが、THAADに付随するXバンドレーダーは探知距離が1000キロ以上あるため、韓国に配備されると中国内陸部のミサイル基地まで常時監視することが可能になる。そのため中国は、実際には「中国封じ込め」の一環だと反発しているのだ。

 韓国の韓民求国防相はこの時、「米国は配備を決めていないし、米国からの要請もなく、協議もしていない」と釈明に追われた。青瓦台(大統領府)もその後、同じ立場を表明した。

 だが、中国の圧迫は止まらない。3月16日に韓国外務省で李京秀次官補と協議した中国の劉建超外務次官補は協議後、韓国人記者団にTHAAD問題を話し合ったと披瀝し、「中国の関心と憂慮を重視してもらえればありがたい」と述べた。中国の高官は普段なら記者の質問など無視して通り過ぎるだけに、韓国世論を圧迫しようとしていることは明白だった。

 一方で米国も、在韓米軍司令部が12日、「THAAD部隊の韓国配備に対する最終決定は、なされていない」と断りつつも、「今後ありうる配備に備えて適切な場所を探すための非公式調査を行った」と表明。17日には訪韓したラッセル国務次官補が、記者団に「まだ配備されていない安保システムについて第三国が声を強めるのは奇妙なことだ」と語り、中国を牽制した。

 韓国のベテラン政治記者は「安全保障の問題なのだから、毅然とした態度を取るべきだ」と煮え切らない自国政府の姿勢にいらだちを見せながら、「中国はこの問題で、韓国の政策決定に影響力を行使する前例を作ろうとしているのではないか」という警戒心を示す。

 ただ、中国との関係を重視する進歩派の野党陣営からは「韓国の対外基本戦略は米中間に衝突をもたらさないようにすることだ」として、THAAD配備に慎重な声が強い。

 19日に発表された民間調査機関・リアルメーターの世論調査では、THAAD配備に「賛成」が42.1%、「反対」が27.2%だった。この調査で注目されるのは、自らを「保守派」と答えた人は、賛成62.9%、反対12.3%と賛成が圧倒的だった半面、「進歩派」と答えた人は、賛成24.2%、反対51.6%と反対が圧倒的だったことだ。

 米韓同盟重視の保守派と中国重視の進歩派の意見対立という構図だといえる。韓国では結局、台頭する中国とどう向き合っていくのかということが対米観にも大きな影響を与える時代になってきたと言えそうだ。

さわだ・かつみ 1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11年から再びソウルで勤務している。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『LIVE講義 北朝鮮入門』(10年、東洋経済新報社、共著)、訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。毎日新聞サイト内に主な記事などを集めた個人ページ「アンニョン!@ソウル」がある。