李相哲(龍谷大学教授)

 韓国の京畿道(キョンギド)議会の議員が、道内の小中高校で使用する20万ウォン(約2万円)以上の日本製什器(じゅうき)に「本製品は日本の戦犯企業が生産した製品です」と書いたステッカーの貼付を義務づける条例案を提出した。国内外からの批判が相次ぎ、条例案は審議保留となり、事実上の取り下げになったが、そもそもなぜ、こうした条例案が提出されたのだろうか。

 条例案を発議したのは京畿道議会の議席の95%を有する与党「共に民主党」の議員25人と野党議員2人だ。仮に、同条例が議会で承認されれば、京畿道の教育庁は、4700カ所の小中高校の日本製品保有状況を調査し、その結果を毎年公開するとともに、日本製品には「戦犯企業」のステッカーを貼らなければならないことになる。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権誕生後に実施された地方選挙で共に民主党は圧勝し、大半の議会で3分の2以上の議席を獲得した。京畿道議会の場合は142議席のうち、135議席を共に民主党が掌握、いかなる法案や条例案も可決できる環境にある。

 条例案が京畿道議会常任委員会を通過すると、野党である「正しい未来党」からは「民主党は文在寅政府の無能を隠すため、反日を持ち出した」「今、高まっているのは反日ではなく反文(文在寅)である」、「ステッカーを貼るべきはこのように国民を愚弄する馬鹿げた条例を持ち出す民主党議員ではないか」と非難はしたものの、今のところ、野党は地方議会で法案や条例を阻止できる力を持っていない。

 先に記した通り、条例案については批判の声が上がったため、事実上取り下げになったが、このような条例案が堂々と議会に出された背景には、韓国の政治が抱えている深い闇がある。

 まず、韓国の「運動圏政治」の闇だ。運動圏政治とは、韓国では自身の主張である社会正義を貫く政治を意味する。そもそも、与党の共に民主党の国政議員、地方議員、地方自治体の首長のほとんどは、かつて民主化運動に身を投じた経歴を持つ。
2018年10月4日に平壌で開かれた会合で、あいさつする韓国の与党「共に民主党」の李海瓚代表(韓国取材団・聯合=共同)
2018年10月4日に平壌で開かれた会合で、あいさつする韓国の与党「共に民主党」の李海瓚代表(韓国取材団・聯合=共同)
 彼らは、選挙という「合法的な手続き」を経て選ばれているが、デモやストライキを主導し、各種市民団体に所属して政府にクレームをつける活動以外に生産性のある職業に就いた人は少ない。こうした政治家の多くは、激しい「反対運動」を唱えることで名を売り、政治に入門、チャンスをつかんで議員バッジをつけた人たちだ。

 このような政治家の特徴は、組織を壊したり、騒ぎを起こしたりし、選挙に勝つことを唯一の目標とする。共に民主党で要職についている幹部の多くはこのような経歴の持ち主だ。