さらに、条例案の内容が日本でも報道され、国際問題にまで発展する様相を呈してくると、さすがに黄議員も危機感を覚えたらしい。自分のフェイスブックに弁明とも反論ともつかない長大な文章を掲載したのが、そこではまず、国内外の批判や反論を「愚かな反対」と一蹴。その上で条例案に対する自分の愛国的な心情を長々と吐露した。「学校現場で学生が直接戦犯業ステッカーの付着を行うのか、それとも他の方法で実現するのかを学生自治会で討論する最小限の制度を用意しようと思う」などと中途半端な妥協案を示した上で、「条例案に対する道民の皆さんのご意見を熟慮します」などと謙虚な姿勢を見せた。

 ところが、条例案を報じる日本のマスコミ(「情報ライブ ミヤネ屋」)に触れると文体が一変。「だが、皆さん、これだけは必ず覚えていてください! あの日本の放送に出演している、歴史を否定する極右勢力と同じ認識を持っている勢力が、いまだ韓国の国会と社会指導層に存在するということです!!」と煽って文章を締めくくっている。

 どう見ても、「ミヤネ屋」のレギュラー出演陣が「極右勢力」とは思えないのだが、韓国では自分が気に入らない意見を述べる日本人を「極右勢力」呼ばわりするのはよくあること。まさに「反日扇動」の典型である。これに感動して黄議員を熱烈に支持する書き込みを行っている韓国人(おそらく支持者)も多いのだが、ところどころに冷めた書き込みも散見されるのは前述の通りである。

 さて、この条例案によって、地方議会の一年生議員にすぎなかった黄議員は一躍時の人になったのであるが、ちまたの耳目が集中したあまり、黄議員自身も「戦犯企業」の製品を使っているという非難を浴びることになった。

 ことの発端は黄議員のフェイスブック。黄議員は昨年3月17日、フェイスブックに「地域商店街連合会の方々と対話の時間を持ちました」という書き込みとともに、ボールペンが差し込まれたシステム手帳の写真を公開した。このボールペンは三菱鉛筆の「ユニ・ジェットストリーム」。

 黄議員はかねてから公の場で「新日鉄住金、三菱、ニコン、パナソニックなどは戦犯企業」などと発言しており、「自分も『戦犯企業』の製品を使っていながら、戦犯企業ステッカー条例案を推進している」という手厳しい非難を受けることになった。

 黄議員もこれを明らかに意識したと見られ、問題となった書き込みと写真を削除している。ただし、問題となった「三菱鉛筆」はスリーダイヤのマークこそ同じであるが「戦犯企業」とされている「三菱」とはまったく関係がない企業である。黄議員が三菱鉛筆について正確な知識を持っていたならば、書き込みと写真を削除したりせずに、堂々と反論すれば済むだけのことだ。それをしなかったということは、おそらく黄議員自身も「戦犯企業」に対して明確な知識がないのだろう。「戦犯企業」に対する定義があやふやのまま、条例案を提出したのではないか、という疑いを持たせるのに十分である。
2019年4月1日、本社受付に掲げた新社名の看板前で会見を行う日本製鉄の橋本英二社長
2019年4月1日、本社受付に掲げた新社名の看板前で会見を行う日本製鉄の橋本英二社長
 条例案の発議に加わった議員は「共に民主党」25人、自由韓国党1人、正義党1人。京畿道議会は142議席だから、発議に加わった議員は決して多い数ではない。ただし楽観は許されない。「共に民主党」は議会で135議席を占めており、圧倒的な勢力を保っている。さらに現京畿道知事の李在明氏は「共に民主党」所属で、「日本は仮想敵国」などという放言歴もある。条例案の行方は予断を許さない状況であった。

 条例案の審議は3月29日に行われる予定だったが、なぜか審議が「留保」されてしまう。条例案を発議した黄議員自身が「検討過程が十分ではなかった」「公論化を通して社会的な合意を経た後で、条例の審議を準備する」と述べ、条例案の上程を取り下げたためである。予想外に韓国内で厳しい批判を浴びたのがこたえたと思われる。

 今回の事例で見られたように、韓国では、日本をダシに使えば、手っ取り早く愛国者ぶることができ、巷間の注目を集め、手軽に名を売ることができる。こうした「愛国者コスプレ」に対しては表立った批判もしにくいため、その行為はどんどんエスカレートし、常軌を逸した奇行にまで行き着くことが多い。

 今回は条例案の中身があまりに突拍子もなかったため、韓国国内からも批判の声が上がったが、今後も第二、第三の黄議員が現れることは容易に想像がつく。すでに「最悪の状態」にまで行き着いたとされる日韓関係であるが、こうした扇動者の軽挙妄動によって、さらなる関係悪化もありえるということは覚悟しておくべきだろう。