吉田潮(ライター・イラストレーター)

 善人だがうだつの上がらない夫、いぶし銀のベテラン刑事からホンマモンの極道まで、現代社会のどのフィールドにもいそうな「人物のリアリティー」を匂わせる役者、それがピエール瀧だった。コカイン摂取による麻薬取締法違反で逮捕という報道は衝撃を受けたし、それ以上に30年近く薬物依存症だったことに驚いた。

 起用した側はてんてこまい、特にNHKでは多くの作品に貢献していただけに、対応に追われたようだ。上映や放送、制作物の販売を自粛するかどうかはその媒体の体制や姿勢次第、そこはもう仕方ない。ただ、役者・ピエール瀧に惚れ込んだ人々の思いには同調したい。役者としての貢献度は高かったし、全てをなかったことにする「世の中の潔癖」は恐ろしいと思うので。

 ピエール瀧は演技力が抜群にうまいタイプではなかったが、その場の空気を一変させるような存在感に、映画やドラマの作り手は惚れ込んでいたのだと思う。うまい人がほしいのではなく、虚構の世界に一滴の現実味がほしい、そんなニーズに応え続けてきたのだろう。

 これはピエール瀧に限ったことではない。特に、NHKはミュージシャンの俳優起用が実にうまい。「主演俳優は大手事務所で順繰りに回す」民放局ドラマの悪しきシステムが一切ない。そして、「CM出演で認知度や好感度が高い=スポンサーを引っ張れる」という広告代理店マターのきなくさい条件も一切不要だ。そのドラマの世界観に本当に合致する人材を引っ張ってくることができる。

 例えば、朝ドラ『カーネーション』(2011年)でヒロイン・小原糸子(尾野真千子)のいとこを演じたのが、ロックバンド、黒猫チェルシーの渡辺大知だ。キョトンとした坊ちゃん感を見せる一方で、『サイレント・プア』(2014)では鬱々とした引きこもりの青年役を演じたり、『ゾンビが来たから人生見直した件』(2019年)ではミュージシャン希望の青臭い青年だが、ゾンビになってしまう切ない大役を果たした。
NHK放送センター建物のロゴ=東京・渋谷
NHK放送センター建物のロゴ=東京・渋谷
 また、ロックバンド、銀杏BOYZの峯田和伸も同様に、NHKから斬新な抜てきをされた役者である。BSプレミアム『奇跡の人』(2016年)では、落ち着きのないロックなクズだが、目と耳に障がいのある女児と心を通わせる青年を好演。朝ドラ『ひよっこ』(2017年)では田舎でくすぶるビートルズ好きのおじさん役で人気を博した。現在、大河『いだてん』でも気風のよい人力車夫を演じている。

 受信料を徴収する皆さまのNHKなので、不祥事が起これば大惨事&大掃除となるのは仕方ないとして、この一連のミュージシャン起用は、民放ドラマ界のキャスティングにもかなりよい影響を与えてきた、と思っている。