話をピエール瀧に戻す。ひとたび罪を犯すと、裏社会のその手の雰囲気の役をやっていたことばかりが取り沙汰されるが、そこに異論を唱えておこう。連ドラ初主演作はお馬鹿な学園コメディー『おじいさん先生』(2007・日テレ系)だった。

 演じる山之内金太郎は、ラクダシャツにステテコ姿、口は常にモチャモチャと動き、つえをつきながら徘徊(はいかい)もする「THEおじいさん」である。不良たちで荒廃しきった高校で、このおじいさん先生がさまざまな案件を解決、というか、和やかに穏やかに鎮静化させるという荒唐無稽なコメディーだった。

 すさんだ高校生たちの心の中に実は芽生えている優しさや真面目さを、おじいさん先生が意図せず掬(すく)いあげて、人としての成長を促す、みたいな物語だ。心温まる学園モノと手放しで称賛するにはやや問題があるけれど、とにかく笑える。おじいさんっぷりがそこはかとなくおかしくて。ガタイがいいのに、中腰でブルブルと震えながら徘徊(はいかい)し、たん唾をあちこちにペッと吐き捨てる。頻繁に死にかけては三途の川の手前で蘇る。今まで見たことがないようなスーパーヒーローだった。

 また、『64』(2015年・NHK)では元刑事で、今は県警広報官という主役を見事に演じ切った。この役は背負わされているものが実に多く、難役だったと思う。

 醜形恐怖症の娘が今も行方不明という家庭の問題、昭和64年に起きた女児誘拐殺害事件を解決できなかった元刑事の忸怩(じくじ)たる思い、そして現在は警察上層部の隠蔽(いんぺい)体質に翻弄(ほんろう)される広報官として、新聞記者連中からつるし上げられる苦悩。熱血漢の一言では片付けられない、複雑な感情を抱えた男を好演した。

 映画版もあるが、個人的にはこのドラマ版のほうが真に迫るものがあり、緊張感と憤慨をダイレクトに味わえたと思っている。ただし、新井浩文も出演していたドラマなので、現実的にはお蔵入りなのだが。
映画の舞台挨拶に登壇したピエール瀧=2016年03月、東京都千代田区有楽町(撮影・加藤圭祐)
映画の舞台挨拶に登壇したピエール瀧=2016年03月、東京都千代田区有楽町(撮影・加藤圭祐)
 もうひとつ、『きんぴか』(2016年・WOWOW)の適役&熱演も忘れられない。跡目争いで捨て駒にされたヤクザと、議員の罪をまるっと被せられた元官僚の秘書、そして、安全保障関連法案の撤回を上層部に命を賭して要求した陸上自衛隊員。この3人が「肚(肝っ玉)」「頭(頭脳明晰)」「腕(腕っぷし)」としてひそかに集められ、腐りきった世の中の巨悪に鉄槌を下す、というドラマだった。さて、ここで問題。ピエールはこの3つのうち、どれを演じたでしょうか。