昨年8月、代表作『ちびまる子ちゃん』とともに皆に愛されながら、この世を去られた漫画家、さくらももこさんのように、自身のがんを公表することなく、最期まで黙して人生を全うされる生き方もあります。もちろん、当事者の心理や気持ちについては推し量ることができませんので、個々人の公表の是非について意見を述べるつもりはありません。

 ひと昔前までは、医者が「がんであることを本人に告げないでほしい」と家族に切望され、患者本人にはがんであることが伏せられたまま、最期まで手術や抗がん剤治療が施されていた時代がありました。しかし、今はインフォームド・コンセント(十分な説明と同意)が当たり前です。

 それに、医療者側の営為が医学的コレクトネス(適切性)の追求に終始するあまり、かえって患者との対話が不足し、患者の幸福にそれほど寄与できていない可能性もあります。そのような昨今、がんであることを知った有名人が自ら公表することにより、支持者からのエールで孤独感や精神的苦痛から少しでも解放されたり、前向きに生きるためのモチベーションを保ち続けられる効果は少なくないでしょう。

 一方で、有名人のがん公表は、良きにつけあしきにつけ、個人のプライバシーを越え、大きな影響力を与えてしまうこともあります。また、有名人の病気に対するリテラシー(情報判断能力)や、施されている医療レベルも見て取れることもあるはずです。

 そうなると「なぜあのような手術を選択してしまったのだろうか」「インチキ免疫療法だと理解して受けているのだろうか」「非常に辛そうな印象だが、緩和ケアはしっかりされているのだろうか」「怪しい食事療法に妄信的過ぎないか」と思い至ることだって十分考えられます。

 しかし、そのようなことを言外に示しただけでも、「本人が納得して下した判断だから、外野から言うのはやめるべきだ」「個人の人生に、後からケチをつけるな」などと、負の感情論が引き起こされ、批判を受けることも少なくありません。ゆえに、ある種の医学情報として公にすることの影響力に関して、有名人は自覚的であってもよいと、個人的には思います。

 有名人のように経済的な余裕があるからこそ、「隠れた特別な治療があれば、高額な費用を払ってでも頼りたい」気持ちが募ることもあるでしょう。確かに行動経済学から見れば、「上手な秘訣(ひけつ)」を求めてしまう心理バイアス(偏り)について一定の理解を示すこともできます。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
 ただ、詐欺的医療ビジネスに関わる人たちは、リテラシー欠如というポイントを突いて、有名人に必死で近寄ろうとします。そして、いつしかエセ医学の広告塔の役割を果たす人までも出てしまうわけです。

 そのような、いわゆる「がん克服ビジネス」「生き証人ビジネス」に加担している有名人の話には批判的にとらえた方がよさそうです。サプリメント、青汁などの栄養食品や、食事療法、漢方、インチキ免疫療法、高濃度ビタミンC、点滴療法といったものに「がん免疫力」の効能を強調した場合は要注意といえるでしょう。