この剛男と富士子の夫婦、驚くくらい「酪農感」がありません。なつ役の広瀬すずが役作りのために体重を増やし、日焼けした状態を表現するのに顔をドーランで汚しているのと対照的に、松嶋さんは完璧なスタイルにきれいな白い肌メーク。牧場を歩く時も二の腕がスっと美しく見えるポーズを忘れない姿はさすが「女優」。役としての生活感がないというか、生まれてからずっと父親に育てられ、幼いころから酪農に携わってきた空気が1ミリも感じられないというか。

 藤木さんからも土の匂いが全くしない。もともと柴田家の入り婿である剛男は、泰樹が連れてきた富士子の婿候補の中で完全なダークホース。いつも本を読んでいて、コイツはないな、と泰樹が思っていたところ、富士子が選んだのが剛男だったという結末。

 そう、なんかこうこの2人って、戦後すぐの北海道で大地に根付いて自然とともに生きている夫婦のテンションじゃないんですよ。夏休みで東京から親戚のところにホームステイしてます感が強過ぎて。今は農協にお勤めの剛男なんて、おしゃれなカフェで普通にパンケーキとか食べてそうですから。泰樹おんじが十勝を開墾したゴリゴリの開拓者の風情なのとは真逆のたたずまい。

 女優、特に松嶋菜々子のように、ずっと主役かヒロインの枠で常に画面の中央に立っていた人が、ある時期から「主役のお母さん」をはじめ、助演に回ったり、役柄が変わっていくのって、ご本人の気持ちを考えてもなかなか難しいことだと思います。そういえば、50代以上の日本の女優で主演オンリーなのって、今や沢口靖子姫、もしくは吉永小百合王女しかいない気が。

 だけどこのままだと、『なつぞら』の富士子ちゃんこと松嶋さん、過去の朝ドラヒロインが100作目に大集合!のうちの1人で終わっちゃう気もするのです。もっと富士子のたくましさや本当の強さをしっかり見たい。今は比較的出番も少なめで見せ場もほぼない「おしん」こと小林綾子がこの先本気を出してきたら大変ですよ。向こうは橋田壽賀子ファミリーよ。
女優、松嶋菜々子=2018年1月12日、東京・丸の内(撮影・中井誠)
女優、松嶋菜々子=2018年1月12日、東京・丸の内(撮影・中井誠)
 もちろん『なつぞら』のヒロインはなつなので、彼女を中心に物語が展開するのは当然ですが、もう少し泰樹以外の柴田家の人々もじっくり見たいなあ、とも思うわけです。あまりにいろんなことがきれいで生活感がなく、北海道の美しい景色がバンバン映し出されるのを見ていると、リアリティーがなさ過ぎて、ちょっとむずむずしてしまう。

 と、好き勝手書いていたら、あっという間に泰樹は農協への加入を決め「舅VS婿のミルク問題」は30秒で解決。えええー、さすが朝ドラ。ヒロインが舞台に立ったことをきっかけに、あんなにくすぶっていた火種もあっさり消えちゃうんですね。そしてなつが東京に向かうことで事態はいろいろ動きそうな予感。今後の展開がどうなるのか、柴田牧場の牛とともに見守りたいと思います。