では、下り龍は聖域を守るという以外にどんな意味があるのだろうか。

 龍で思い浮かぶのは、四神の一、青龍。東の方位を守る神獣だが、これとは別に、北を守る聖獣としての下り龍がある。

 本来、北を守るのは玄武だ。ところが、亀と蛇の融合体であるこの神獣については、足利義昭が積極的に改元を進めた「元亀」の元号にその意味が込められ、信長がそれを嫌ったことはすでに述べた。

 古来、聖なる都は風水によって「四神相応の地」といい、北・東・西を山に囲まれ、南だけが開けた土地を選んで造営された。平城京しかり、平安京しかり、である。

 特に北に山があることが肝心で、そこから「気」(エネルギー)が取り込まれて都に流れ込み、開けた南へ流れていく。京で言えば鞍馬山以北の山並みが「気」の入り口、すなわち「龍脈」にあたる。そして、鴨川・桂川がそれを南へと流していく。

 だが、すべての場合にそういう地形、そういう土地が選べるわけではないから、風水はそれをカバーする方法も提案している。それが「下り龍」というわけだ。彫刻の置物でも絵でも良いから、下り龍をモチーフにしたものを北方位に備え付けることで、「気」を呼び込む。これで龍脈の代わりとなる。

 義昭の「元亀」を否定した=玄武を避けた信長にとっては、下り龍はまさにうってつけのモチーフではないか! 「天下布武」の四文字を2頭の下り龍で囲んだバージョン③には、誰の代理でもない、信長自身の天下布武に龍のパワー(「気」)を導き入れる意図が隠されていた。

 さらにいえば、黄龍というものもある。『芸文類聚(げいもんるいじゅう)』という中国の古書に「黄龍者(は)四龍之(の)長」と記されているなど、東西南北の中央に位置し四方向それぞれの龍神の長たる存在だ。ゆえに、中国では皇帝の象徴となる。
信長の旗印。黄色地に永楽通宝の文字が書かれている=清州城(中田真弥撮影)
信長の旗印。黄色地に永楽通宝の文字が書かれている=清州城(中田真弥撮影)
 そこで問題。信長の旗印は何だったか? これについても以前に触れたが、皆さまよくご存じの「黄色地に永楽通宝」。彼が天皇に遠慮せずその色を使った件も第14回で触れたが、信長が早くから黄龍の神通力を意識していたとすれば、旗印の件も一層説得力が増す。ちなみに、織田家の陣幕も黄色地に木瓜紋だ。