実名でリベラルな発言をすることの恐ろしさ

中川:保守とリベラルでどっちの人数が多いかと言ったら、私の実感としたら1対9くらいなんですよ。リベラルが1です。

橘:私は3対7くらいかと思ってましたが。

中川:声の数で言ったら3対7で正しいと思うんです。少数派であるリベラルが、必死に“狂った”日本の状況を何とかを変えようと思っている。人数的には9分の1くらいしかいないけど、とにかく危機感を持っているからなんとか必死に3倍の声を上げている状況かなと。最初、私はネトウヨ批判側として、ネットでの発言をやり始めたんです。2010年くらいから3年半くらいはそんな感じでした。ただ、それ以後、ちょっとおかしくなってるぞと。むしろ左が嫌いになっていったんです。その過程で反原発の運動があり、在日へのヘイトスピーチへのカウンター活動があり、LGBTとか、沖縄とか色んなイシューが出てきた。でも毎回出てくる人が同じなんです。反安倍政権というところで一致した人たちが、何でもいいから共産党と社民党と組んで、あるいは立憲民主党の誰かと組んで動こうというのが見え隠れしていて、そのいつもの方々が毎回元気なわけですよ。この人たちはすごい危機感もあるし使命感もあるんだなってわかる。それがさっきの声の数の「3」に出ているのだと思います。

橘:リベラルの退潮は、朝日新聞などを見ていても、「知識人」として論評するひとがどんどん減っていることに表われていますね。戦後民主主義の全盛期は大御所みたいなひとがいたうえで、次から次へと新しい論客が出てきた。いまでは同じ人物が時事評論から政権批判までなんでもやっていて、よく考えたら5人くらいしかいないんじゃないかという状況になっている。大衆知識人にかぎれば、明らかに保守派の方が人材が豊富ですよね。

中川:先日、朝日新聞に東京医大のデモを報じる記事が出ていたんですね。そこで取材をされていた一般人風の参加者のコメントがあったんですけど、その人、いつも反政権の活動をしている女性なんですよ。朝日もこの人にしかコメントを取れなかったのかと呆れました。

橘:実名を出してそういうことを言える人が、いなくなってきたのかもしれませんね。

中川:怖いのかもしれないですね。

橘:「こいつは気に食わない」となった瞬間にすぐにネットで検索されて、住所や職場、学校、交友関係まで晒されてしまうんなら、普通に生きているひとは、堂々と意見なんていえないですよ。

中川:数の論理でいえば、右の方が強いのは間違いない。それがよく表れたのが、2011年8月21日に行われたフジテレビデモだと思います。高岡奏輔という俳優が、フジテレビが韓国コンテンツを流しすぎだとツイッターで同社を批判したところ、彼は所属事務所をクビになった。ただ、事務所から見たら大クライアントであるフジを批判したら処分を受けるのは当たり前だと思うんですよ。

 これに対し「愛国者たる高岡さんの不当解雇を許すな!」とばかりに5000人の参加するデモが発生しました。それに対してフジテレビの社員がツイッターで「あんたら暇なの?」と書いたんですよ。そしたら、「あんたら」という一言に怒りが沸騰しました。しかもこの社員はうかつにも実名でツイッターをやっていたからすぐにFacebookのIDも見つけられて、自分の家の車のボンネットに映った家の形から自宅が特定された。その後、“スネーク”と言われる見物する人たちが続出しちゃった。しかも、過去に仕事で獲得したであろうグッズをヤフオクに横流ししていた疑惑とかを全部暴き出された。彼はその後社内で居心地悪かったんじゃないかな、と思います。

橘:そういうネットの恐ろしさがある程度浸透してきたので、実名、顔出しができなくなってきたというのはあると思いますね。私自身、ペンネームで顔写真も公開していなくて、「ネット社会で上手くやってますね」みたいなことはよくいわれますから。でもこれはたまたまで、物書きになった頃はネットのことなんてほとんど理解していなかったのですが。(続く)

◆橘玲(たちばな・あきら):作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『言ってはいけない 残酷すぎる真実』『(日本人)』『80’s』など著書多数。

◆中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):ネットニュース編集者。1973年生まれ。『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『夢、死ね! 若者を殺す「自己実現」という嘘』『縁の切り方 絆と孤独を考える』など著書多数。

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