2019年05月15日 12:57 公開

英ITVのトーク番組に出演してうそ発見器にかけられた男性が死亡した問題で、番組の打ち切りを求める声が英政界でも高まっている。

ITVの午前のトーク番組「ジェレミー・カイル・ショー」は、2005年に放送開始。一般人をゲストに呼び、お互いの人間関係や日常生活の問題についてスタジオ観客の前で話し合う。出演者同士で激しい言い争いになることが、番組の特徴のひとつ。ITVの昼の番組では一番の人気で、平均視聴者数は約100万人、視聴率は22%を獲得している。

5月初めにこの番組の収録に出演したスティーヴン・ダイモンドさん(63)が5月9日、死亡しているのが発見された。所管のハンプシャー警察は、不審死ではないと発表した。ポーツマス検視官事務所は、検視結果を待っていると明らかにした。近く死因審問が開かれる予定という。

ダイモンドさんは番組の不倫を扱うコーナーに出演し、うそ発見器の使用に応じたとされている。

観客として収録に参加したバベットさん(20)はBBCに対して、「(うそ発見器の)テスト結果が発表されたとたん、(ダイモンドさんは)泣き始めてショックを受けている様子だった」と話した。

「婚約者はすごく悲しそうで、しくしく泣いていた。うそをついたというテスト結果で、スティーヴンさんは信じられないようだった」とバベットさんは言い、「本人はおもしろおかしい話をしたつもりが、こんなことになってしまって、私もすごくショックだ」と話した。

英紙サンに対して、ダイモンドさんと一緒に番組に出演した元婚約者、ジェイン・キャラハンさんは「1週間前に別れたばかりですが、2年も一緒で、まだ愛していました」とコメントした。

「2017年のクリスマスの日に婚約しました。彼は泣いていて、私たちの愛情は本物でした。本当に優しくて愛情豊かな人でした」

「静かに苦しんでいたのに、当時は知らなかった。私を裏切ったし、それは確かだと思います。許すことはできないけど、ともかく生きていて欲しかった」

首相官邸の報道官はこの件について、「放送事業者や制作会社は、番組の参加者や視聴者の心の健康や安全に対して責任を負う。適切な支援体制が提供されなくてはならない」とコメントした。

英下院デジタル・文化・メディア・スポーツ特別委員会のデイミアン・コリンズ委員長(与党・保守党)は、通信・放送関連規制当局オフコム(情報通信庁)に対して、「ジェレミー・カイル・ショー」など視聴者参加型の番組における支援体制を確認するよう呼びかけた。

コリンズ委員長はBBCに、委員会は15日にも問題を非公開会合で協議すると話した。

自分自身の強迫性障害(OCD)など心の健康について発言してきたチャールズ・ウォーカー下院議員(保守党)は、ITVに対して「ジェレミー・カイル・ショー」の打ち切りを呼びかけている。

ウォーカー議員はBBCに、「これは転換点だ」と言い、ITVが「もう潮時だ」と判断するなら、「それは極めて賢明な判断だ」と述べた。

自殺・自傷防止の超党派議員団に参加しているウォーカー議員は、「ジェレミー・カイル・ショー」にゲスト出演する一般人は「実際にはゲストではなく、被害者だ」とBBCに話した。

「ジェレミー・カイルをやたらと責めることはしたくない。もう辛い思いをしているだろうから。けれどももちろん、遺族の方が辛いに決まっている。(中略)これは連帯責任だ。誰もこういう番組を見ないなら、誰もこういう番組を作らないはずなので」

「なぜこういう番組が作られるのか、社会全体として責任がある。こういう番組が制作されてこれほど大勢が番組を見るというのは、私たち自身の姿を反映している」

「(番組は)残酷だ。世界はただでさえ十分に残酷なのだから、テレビでことさら映し出すまでもない」

野党・労働党のジュリー・エリオット下院議員も、「ジェレミー・カイル・ショー」の打ち切りに賛成し、こうした番組は「社会の中でも最も弱い立場にいる人たちを、いいように使っているように見える」ことを「かねてから懸念していた」と話した。

精神科医で2017年まで英王立精神学会の会長だったサー・サイモン・ウェスリーも、「打ち切るべきだと思う。残酷性を見世物にしている。確かに毎日、百万人が楽しんでいるのかもしれないが、それは(古代ローマ帝国が)ライオンとキリスト教徒を戦わせたのと同じだ」と批判した。

ITVはコメントを発表し、「『ジェレミー・カイル・ショー』は、出演者に対して収録前、収録中、収録後と心理的ケアを提供する、詳細な手続きを確立している。これは14年間かけて積み上げてきたもので、これによって良い結果につながったケースが複数ある。長年にわたる複雑な個人的問題がこれで解決した人たちもいる」と述べた。

オフコムは13日、「非常に憂慮される事態」だとして、事実関係を把握するためITVと話し合っていると明らかにした。

15年前からITVの様々なリアリティー番組に関わってきた心理学者のハニー・ランカスター=ジェイムズ氏はBBCの朝の情報番組「ブレックファスト」に対し、一般視聴者のゲスト出演についてテレビ局側の態勢は大きく前進したものの、まだ改善の余地はあると話した。

「たとえプロデューサーが手助けをしたいと思っても、精神医療の仕組みをよく分かってないことが多い。それが、事態を難しくしている」

(英語記事 Jeremy Kyle: Calls for ITV show to be axed