そもそもこうした申請をしても、これほど早い対応は極めて稀(まれ)なことだ。では、一体私はどんな手続きを使ったのか。

 事務所スタッフによると、ネット上の掲示板に「アットウィキは削除申請のルールがあり郵送でなければ申請を受け取ってもらえない。メールなどでは当然受け取ってもらえないのになぜ?」と書かれていたそうで、「こんなに早く消されることはこれまでない」などの書き込みもあったようだ。

 さらには、「異例の対応」だとか「有名人だから運営が早く対応した」、「弁護士がやったからだ」などいろいろな憶測が語られたようだが、私は浅学ながら法律の知識が多少あり、会社の法務(音楽芸能とは別の会社)などで培った実務のノウハウと、事務所スタッフにも著作権をはじめとする法務のプロがいるため、今回のようなケースであえて外部の弁護士に依頼する必要もない。ただ、内容や表現方法の違法性を運営会社にもれなく指摘しただけだ。

 今から3年ほど前の事件だが、ツイッターやネット掲示板に私を中傷する書き込みをした自称アニメライターの男が名誉毀損罪で起訴され、有罪になった事件がある(「『おじゃる丸』の声優、小西寛子さんをネットで中傷 容疑の男性を書類送検」産経新聞 2016.3.19)。

 平成27年4月末ごろから、ツイッターやネットの「まとめサイト」などに「元声優の小西寛子、ネット訴訟で損害賠償をせしめようとする」「NHKに高額なギャラを要求しておじゃる丸を干された」といった中傷の書き込みがあるのを事務所関係者が発見(「『おじゃる丸』声優をネットで中傷 相模原市の男に罰金10万円」産経新聞 2016.6.29)。 

 この事件は、自称アニメライターの45歳の男(当時)が、小西寛子が「仕事を干された」「高額のギャラを要求した」「引退した」「元声優」などと名誉を毀損する表現を含む記事を、ツイッターおよびネットブログや掲示板、アニメ声優情報アカウント、そしてなんとアマゾンの小西寛子のダウンロード音楽の商品各レビューなどに至るまで多数投稿・書き込みをし、長期にわたり私の名誉・信用を毀損していたというものだ。

 先に紹介した人物辞典の記述の中にも「元声優」という表現がある。元声優の何が悪いんだ? と思う人もいるかもしれない。ところが、私に対するこの「元声優〜」という表現は、ある意図をもって20年近く用いられているものであり、これは私だけの問題に止まらず、業務の性質によっては死活問題になりうるものだ。

 元横綱、元職員、元裁判官…「元」というのは、現在はその職を離れている人、いわゆる引退をした人などの肩書きに付される接頭辞だ。つまり、私は引退宣言もしていないのに、20年近くも、「過去の人」にされていたことになる。
筆者の小西寛子氏=協力:日の出山荘 中曽根康弘・ロナルドレーガン日米首脳会談記念館
筆者の小西寛子氏=協力:日の出山荘 中曽根康弘・ロナルドレーガン日米首脳会談記念館
 自称アニメライターの男が投稿するとき、執拗に「元声優」を用いることで分かるように、「元」と表記することによって、「引退したイメージを抱かせ、仕事のオファーがいかないように仕向ける」ことができる。これと同時に、NHKのアニメおじゃる丸の降板に関して、「高額のギャラを請求して降板させられた」という虚偽の事実をもってあたかも問題児であるかのように仕立て、社会的評価や信用を低下させる書き込みを行うことで、事実上の引退に追い込み、「元声優」というイメージを定着させていくのだ。実際、この男はかなり多くのアカウントを巧みに使い分け、自ら書いた記事などの信憑性を演出し、執拗に嫌がらせをしていた。