トランプ大統領は中国との貿易交渉について、「まったく急ぐ必要はない」と語りました。核・ミサイルの完全破棄についても、「北朝鮮が準備ができていない」と主張し、早急に交渉を開催する意向を示していません。その結果、米中貿易交渉及び北朝鮮の核・ミサイル交渉に関して、長期化の懸念が出ています。

 では、なぜトランプ大統領は急ぐ姿勢を見せないのでしょうか。

 まず、交渉相手に対してアドバンテージがあるからです。トランプ大統領にとって、「追加関税」並びに「経済制裁」は中国と北朝鮮に対する交渉のレバリッジ(てこの力)であり、両国に対するアドバンテージになっています。過去にトランプ氏は、「追加関税がなければ中国と交渉はできない」と本音を漏らしたことがありました。

 中国と北朝鮮が米国の要求を先に受け入れるまで、トランプ大統領が2つのレバリッジを手放す可能性は極めて低いとみて間違いありません。

 次に、金委員長の「(米国が態度を変えるのを)2019年末まで待つ」という発言もアドバンテージの1つにしています。トランプ大統領は交渉で期限を設けると柔軟性を失い、自分の立場を弱くすると考えています。金氏が期限を設定したので、同大統領は交渉で優位な立場に立ち、急ぐ必要がなくなったわけです。

 好調な米国経済も背景にあります。トランプ支持者が雇用に関して不平不満をもらし、それが怒りに変わるまで、トランプ大統領は急ぐ必要がありません。

 加えて、20年米大統領選挙の日程と関係があります。共和・民主両党の大統領候補のテレビ討論会は来年の秋から始まります。通常ですと討論会は3回行われ、内1回は外交・安全保障がテーマになります。

 トランプ大統領はそこで米中貿易交渉と北朝鮮との核・ミサイル交渉の成果を強調したいはずです。逆算すれば、来年の夏までに結果を出せばよいということになります。

 現時点では、トランプ大統領は米中貿易交渉と米朝首脳会談が物別れになっても、「(習主席と金委員長との)信頼関係は崩れていない」と述べて、首脳間の個人的な関係を盾にして批判をかわしています。同時に、前述しましたが、歴代の米大統領は中国との貿易摩擦並びに北朝鮮との核・ミサイル問題を解決できなかったと指摘し、矛先を習・金両氏ではなく、自国の元大統領に向けています。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
 要するにトランプ大統領は、習、金両氏との良好な関係を維持しながら、中国と北朝鮮に対して強硬姿勢をとるという非常にユニークなアプローチをしています。しかも、自ら状況をエスカレートさせ、危機的状況を創り、回避するという戦略をとります。

 この巧みな交渉術とコミュニケーションスキルを交えたアプローチ及び戦略が、果たして今後も有効なのか、そこに注目です。

うんの・もとお 明治大学教授、心理学博士。明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。