2012年12月に首相に再就任した後も、国民に対して北朝鮮の「脅威」を実態以上に訴えることで、政治利用しているのではないかとの反発もあった。2017年9月には「北朝鮮の脅威に対して、国民の命と平和な暮らしを守り抜く」として、「国難突破解散」を宣言した。

 たしかに北朝鮮が核・ミサイル実験を繰り返したことは、わが国の安全保障にとってゆゆしきことであったが、解散が宣言された時点で北朝鮮は、党政治局常務委員会を開催するなど、既に対話攻勢への切り替えを準備し、その兆しが見えていた時期でもあった。

 2018年5月、トランプ大統領が米朝首脳会談の中止を表明した際に、安倍首相はそれを「尊重し、支持」した。核・ミサイル問題のみならず、「拉致問題が実質的に前進する機会となる、そのような首脳会談にしなければならない」との認識に立ち、「日米、そして日米韓、またロシア、中国、国際社会としっかりと連携」すると繰り返した。

 安倍首相の発言は、一見して正論であり、国民の理解を得やすいものであった。しかし、実現可能性の観点からは、理想主義的過ぎると言わざるを得なかった。北朝鮮問題をめぐっては、「国際社会」どころか米韓両国とすら連携できない状況が続いていたからである。

 今年2月の第2回米朝首脳会談が合意ゼロに終わったことについても、トランプ大統領の決断を「全面的に支持する」と述べている。何としても合意が欲しかった北朝鮮は、その後も日本に対する非難を強めてきた。

 それでも、北朝鮮には、長期的に見れば対日関係を改善するメリットがある。国交正常化に至れば、それに伴う莫大(ばくだい)な正常化資金を獲得することができるからである。ただ、実現へのハードルは日朝平壌宣言が署名された17年前よりも格段に高い。北朝鮮のイメージが地に落ちている現状で、日本国民が国交正常化について理解を示すのは難しく、北朝鮮側もそのことを十分に理解している。
ロシアのウラジオストク駅に到着し、歓迎式典に臨む北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2019年4月24日(共同)
ロシアのウラジオストク駅に到着し、歓迎式典に臨む北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2019年4月24日(共同)
 現在は米朝交渉が足踏みしている状態であるが、紆余(うよ)曲折を経てもトランプ政権の間に漸進させ、経済制裁緩和に合意が見られれば、北朝鮮には韓国から大量の外貨が流れ込むことになる。国民感情としても不信が根深い日本との関係改善よりも、昨年から手掛けている米韓との関係改善を進めたほうが得策と考えているのは、17年前の状況と大きく異なっている点である。

 しかし北朝鮮は一元的支配の国家である。戦略性を持っている国家ではあるが、常に合理的な選択をするというものでもない。長期的な視点から、今すぐに大きな利益を得られずとも、日本政府との信頼構築が必要だとの判断が下される可能性もある。