西岡力(「救う会」会長・麗澤大学客員教授)

 編集部から、安倍晋三首相の「無条件で日朝首脳会談を行う」という方針転換に関する考えを書いてほしいと依頼があった。しかし、安倍首相は方針を転換してはいない。まずそのことについて書きたい。

 安倍首相が「条件をつけずに金正恩委員長と会う」と最初に報じたのは5月2日付の産経新聞だった。この直後から家族会・救う会はマスコミから、安倍首相の発言は家族会・救う会の運動方針と異なるものではないかと繰り返し見解を求められた。

 実は昨年、一部マスコミは家族会に対して、韓国、米国、中国の首脳が金委員長に会っているが、安倍首相も早く金委員長と会談してもらいたいと思っていないか、という趣旨の質問をくり返していた。

 当時、安倍首相が対話のための対話はしない、拉致問題解決に資する首脳会談にしなければならない、ということを話していたので、家族会にそれと異なる意見を言わせようという誘導のように私は受け止めた。

 そして、今度は安倍首相が首脳会談に積極的な姿勢をみせると、家族会・救う会の方針と異なっているのではないかという質問が出てきた。ここでも家族会と安倍首相が対立しているという構図を求めているように感じた。

 しかし、そもそも家族会・救う会は日朝首脳会談のもたれ方について運動方針で言及したことはない。全被害者の即時一括帰国が実現するまで、制裁を緩めず支援もしてはならない、これが政府への要求だ。結果を出すのは政府の責任であり、そのための戦術はこの問題を熟知している安倍首相に任せるということだ。

 5月19日、拉致家族とともに安倍首相から直接話を聞く機会があった。同日、私が会長をしている「救う会」と家族会などが主催する「全拉致被害者の即時一括を実現するぞ!国民大集会」に出席する安倍首相が集会前に約1時間、私たちと昼食懇談会を持ってくれたからだ。

 そこで安倍首相は、4月に訪米した際にトランプ大統領から2月にハノイで行われた米朝首脳会談でトランプ大統領が2回、日本の拉致問題を提起したこと、それに対する金委員長の反応について詳しく聞いたと、私たちに説明した。

 それを受けて、金委員長に対して日本と米国が核ミサイル問題だけでなく、拉致問題についていかに重要視しているか、金委員長にしっかり伝わったという感触を安倍首相は持ったのだ。

 安倍首相は拉致被害者を取り戻すために「条件なしで金正恩委員長と会う」と言っているのだ。すでに金委員長が拉致問題の重要性を理解したというトランプ大統領の説明を受けての発言だ。
拉致被害者家族と面会し、あいさつする安倍首相=2019年5月19日、東京都千代田区(代表撮影)
拉致被害者家族と面会し、あいさつする安倍首相=2019年5月19日、東京都千代田区(代表撮影)
 振り返ってみれば、安倍首相が条件なしの首脳会談と発言し出したのは、4月の訪米後だった。つまり、拉致が議題になることが確実だという判断をしたから、実務レベルで拉致の進展なしでは首脳会談は持てないという確認をとる必要がなくなったということだ。

 「拉致問題解決に資する」という安倍首相がこれまで首脳会談に対してつけていた条件がすでに満たされたという判断なのだ。その判断を私もまた家族会も全面的に支持している。