そして、北朝鮮という国は完全な個人独裁国家であり、核ミサイルの廃棄や拉致被害者の返還などという戦略的な判断を下すのは金正恩委員長ただ一人である。

 実務的に積み上げて同意を得てから首脳会談を行うという、通常の国との外交常識は通じない。だからこそ、安倍首相は金委員長に会って、全被害者の一括帰国とすべての核兵器の完全廃棄を求め、それをすれば日米と国際社会は何をするのかという取引の条件について説明し、決断を迫ろうとしているのだ。それしか解決への道はないと私も考える。

 実は私たちはすでに2月の段階で、「全拉致被害者の即時一括帰国が実現するのであれば、私たちは帰ってきた拉致被害者から秘密を聞き出して、国交正常化に反対する意志はありません」とする金委員長へのメッセージを公表した。

 これは、安倍首相が金委員長に対して「横田めぐみさんらを返すと、彼女らが知っている秘密が暴露されると恐れているのだろうが、家族らは帰国が実現すれば静かに暮らすことだけを願っており、日本政府が責任を持って静かな生活を保障するから秘密の暴露はない」と説得できるように、取引のカードを作ったのだ。

 それを安倍首相も十分理解しており、「金委員長が国家にとって何が最善かを柔軟、かつ戦略的に判断できる指導者であると期待している」と語っている。取引に応じなさいというメッセージを発信しているのだ。

 日朝首脳会談で一番気をつけなくてはならないことは、条件なしで行うのは会談だけで、制裁解除や経済支援は当然条件があるということをきちんと説明することだ。

 私たちは、安倍首相に対して全拉致被害者の即時一括帰国が実現しない限り、制裁を一部緩めたり、人道などの名目で支援することは一切あってはならないと強く求めた。
国民大集会で家族会の横田拓也事務局長(右)と握手を交わす安倍晋三首相=2019年5月19日、東京・平河町の砂防会館(酒巻俊介撮影)
国民大集会で家族会の横田拓也事務局長(右)と握手を交わす安倍晋三首相=2019年5月19日、東京・平河町の砂防会館(酒巻俊介撮影)
 それについて、安倍首相も全く同じ考えであることがわかった。だから、19日の国民大集会では次のように安倍首相の方針を支持する決議を採択した。

 今、大きな機会がやってきたと言える。私たちは制裁と国際連帯の圧力で北朝鮮を交渉の場に引き出す、という戦略を立てて運動してきた。制裁は効果を上げ政権維持に必要な外貨が不足するところまで彼らを追い込むことができている。トランプ大統領が通算3回、すべての決定権を持つ金正恩委員長に安倍首相のメッセージを伝え、最後には応答を引き出すなど、米国の強い協力体制も得られている。私たちは制裁を求めて全国で声を上げ、座り込みさえ行った。国際連帯を求めてくり返し米国や国連をはじめとする世界各国を訪問した。その運動の成果が現れてきたのだ。結果が出るまでこの圧力を決して弱めることがあってはならない。

 家族会・救う会は、「全拉致被害者の即時一括帰国が実現するのであれば、私たちは帰ってきた拉致被害者から秘密を聞き出して国交正常化に反対する意志はありません」とする金正恩委員長へのメッセージを公表した。安倍晋三首相は、核ミサイル問題と拉致問題が解決すれば北朝鮮との不幸な過去を清算し、国交正常化を目指すと繰り返し言明し、最近になり拉致問題解決のため条件をつけず金正恩委員長と会談すると明言した。私たちはいま、全拉致被害者の即時一括帰国を迫るための日朝首脳会談実現を強く求める。