文書流出のみ問題視する事に批判


 一方、こうした検察の捜査に対しては野党やメディアが批判し、反発を招いています。

 文書には青瓦台内部の権力闘争が描かれている。そのなかにはかつての朴大統領の側近で、今は公務員でも秘書官でも青瓦台職員でもない、鄭氏が首を突っ込み横槍を入れる――という話も載っているわけです。

 記述の真偽については全面否定しておきながら、文書が流出したことだけを問題視して事件捜査が行われる。これは歪だし、政権は触れられたくないものに煙幕を張って蓋をしようとしている――という批判です。

 韓国メディアの記者達と話していると「加藤記者があのコラムを書いたおかげで青瓦台にあった岩盤が揺れ動いたことは間違いない」とよく言われます。

 世界日報の記事と私の記事はもちろん内容は異なります。しかし、青瓦台と何の関係もないはずの男性と朴大統領との関係に焦点を置いている点では同じで、地続きの話だといえます。

 大統領の動静、即ち青瓦台を舞台に何が行われているのか、大統領が誰と会って何を話したのか、といった問題はメディアがしっかりと見届けなければならない問題です。たとえ、為政者にとって都合の悪い内容が含まれていても、それはメディアに負わされた、とても大事な役割なのです。

 世界日報の記事も私のコラムも同じ土俵上の話だと言っていいでしょう。記事を報じた世界日報には私同様、捜査の手が伸びています。捜査の行方から目が離せないことはいうまでもありませんが、本来はこうした政権の姿勢自体が厳しく問われなければならないはずです。

無罪に向けて戦おうと決意


加藤達也・産経新聞前ソウル支局長の初公判が行われたソウル中央地裁=2014年11月27日、韓国・ソウル(大西正純撮影)
 27日に開かれた事実上の初公判について話しましょう。韓国の刑事裁判ではまず、日本で公判前に行われる争点整理の手続きの場が被告人も立ち会って公開の場で行われます。そのさい、日本の初公判で行われる人定質問や起訴事実や検察の証拠に対する認否などの冒頭手続きも同時に行われるのです。起訴状の要約に対して私は全面的に争う姿勢を表明しました。

 そもそも私は自分の記事はもちろん、自らの行動について刑事罰を負わされる類いのものだったなどとは微塵も考えておりません。裁判に掛けられること自体が納得いかない。そういう思いはあります。

 しかし、韓国の司法界のなかにもこうした光景が如何におかしいか。そう考えている人達が少なからずいるだろうと思う。そういう司法の良心、良識を信じて裁判という土俵にあがってそこで誠実に事実を述べて行こうと考えました。そのうえで幅広い観点から自らの主張を展開し、無罪を勝ち取るべく戦おうと考えたのです。

見えて来た公判の争点


 公判の進行打ち合わせのなかで、裁判における具体的な争点も一定程度見えてきました。裁判所側が想定している争点のうち、まず一つ目は立証責任が検察側と私のどちらにあるか、という点でした。

 私を罪に問いたいと検察が考えるのであれば、そのための全ての立証を検察側が用意するのが当然です。その立証が足りなければ、私を罪に問うことはできません。これが刑事裁判のセオリーというものでしょう。問題となるのは報道が虚偽か否か、という点です。記事が虚偽だと言いうるには私が大統領を誹謗中傷するなどの悪意を持って記事を書いたという事実の立証が不可欠で、その立証は検察側がやらなければならないはずです。

 ところが検察側は「虚偽の事実を報道していないと弁護側がいうのであれば、その立証は弁護側が負うべきである」などと言い出しています。私ははじめから物事を断定して書いたわけではありません。噂が存在するという事実を朝鮮日報のコラムを引用しながら書いた、そうした状況が朴政権のレームダック化が進んでいる証左なのではないかと結論づけたのであって記事に間違いはありません。虚偽でもなければ、まして悪意を持って書いたのでもありません。ですが、この点をめぐる双方の主張が必ずしも折り合っているわけではないのです。

 次に被害者による処罰感情の確認という点でも問題点がないわけではありません。この場合、被害者というのは朴大統領本人を指すことになるでしょう。記事が出た時点で青瓦台から電話があって記事が誤っているという主張や民事刑事両面での責任を追及する旨が告げられました。記者会見でもそうした意思を表明しており、大統領の処罰意思はそれで明らかだというのが検察側の主張です。

 しかし、私達から見るとそれは青瓦台という国家機関の意思ではないのか、本当に朴大統領があのコラムを読み、名誉を毀損されたという被害の認識や起訴すべきだという考えを個人として持っているのだろうか、と問うているわけです。

 今回の案件は名誉毀損罪です。日本では親告罪といって、被害者の告訴がなければ、起訴できません。韓国では第三者の刑事告発でも訴追はできます――実際、3団体が刑事告発しており、それが受理されて私は訴追されているのですが――が、「反意思不罰罪」といって被害者の意思に反して処罰することはできないのです。