仏オランド大統領の例を見よ!


 さらに男女関係に言及すること自体が、名誉毀損になるのか否か。ここも争点のひとつとなりそうです。今回、私のコラムで朴大統領の男女関係について言及したことに検察側はけしからん、冒涜だと主張しているわけです。

 そこで弁護側はフランスのオランド大統領の女性関係について例を出しました。昨年はじめ、オランド大統領と女性のスキャンダルが世界中で大きく取りあげられました。ご記憶の方もいると思います。

 フランスは米国や英国と違って権力者の私生活についてあまり追及しないという伝統が一応あります。ただ、そういうフランスにおいても公人である政治家は、私生活についても相当程度はオープンにすべきだという声も徐々に大きくなっているのです。

 さらにオランド氏の場合、フランス大統領としては初めての事実婚夫婦です。女優との密会が不倫に該当するのか否か、今後のファーストレディの公務はどうなるのか、さらには安全保障上の問題はないのか…たとえ私生活であっても問題点は山積みされている。これをめぐって議論が交わされているのです。

 それに国家指導者の私生活をつまびらかにすることに消極的とされるフランスでも大統領のプライバシーを報じたからといって記者の刑事責任が問われたケースなどはありません。

 誰にだって守られるべきプライバシーはあります。大統領にだってあるでしょう。ですが、仕事さえできれば、本人がどんな私生活を送っていてもいいとはならないはずです。私がコラムで取りあげたようにセウォル号沈没事故のような国内外を揺るがすような例のない緊急事態が発生して多くの人命が奪われたときに国のトップに立つ大統領が何をしていたのかというテーマは当然、メディアの取材対象となる問題だと思います。

 公共目的があったか否か、という点においても私と検察側は180度異なります。無論私は記事が公共目的で書かれたものだと主張しました。逆に検察は私が悪意を持って故意に虚偽を書いたと主張しています。

特派員の実態を明らかにせよ


 裁判所からは、韓国における特派員の取材実態、取材環境などを明らかに出来る証人がいないか、と提案がありました。国内メディアとは違って海外のメディアは言語上の制約もあれば、人的な問題もあって国内メディアほど縦横無尽に取材が自由にできる環境にはありません。同じ報道機関といっても仕事の進め方ひとつから国内メディアとは相当異なります。ただ、その実態は必ずしも明らかではありませんし、国内メディアにあてはめる常識や尺度との違いを裁判所が把握しておこうということなのだと思います。

 さらに国家指導者に対するスキャンダルを記事に書いて刑事責任を問われた事例がこれまで存在するのか、しないのか――裁判所として海外の事例を明らかにするよう求められました。また韓国の取材事情や海外における権力報道などに明るいメディア論を手掛ける専門家なども求められました。

 今回のケースが国際的に見て、あまりかけ離れた判断にならないようにしたいという裁判所の判断なのかもしれません。

閉廷後生卵が投げつけられる


初公判を終え、ソウル中央地裁をあとににする際、加藤達也前ソウル支局長を乗せた車が抗議デモ団に囲まれ生卵が投げられるなど妨害行為が行われた=2014年11月27日、韓国・ソウル(大西正純撮影)
 約1時間かかった事実上の初公判は終わりました。法廷では途中で騒ぎ出す人が出てくるかもしれないと懸念していましたが案の定、開廷中に私の名前とともに「大韓民国に謝罪しろ」「直ちに拘束しろ」と叫ぶ人が現れました。産経新聞というのは韓国を貶めることばかり書いている新聞だとつぶやいていました。

 そこまでは、さほど驚かなかったのですが、裁判所を車で出るときに走行を妨害しながら生卵が車両にぶつけられる一幕がありました。車の進路に寝そべったり、ボンネットを叩いたり、正直ここまで執拗だとは思いませんでした。

 韓国社会を見ていると、この手の現象はいわば「お約束」のような出来事だと感じることがこれまでもしばしばありました。ですから、私の公判でも似たようなことは起こるかもしれない、あってもおかしくはないだろうと一定の覚悟はありました。

 しかし、これだけ外交の場で俎上にのぼった問題です。静謐な環境のなかで安全が確保され公判が開かれるべきで、常識的に考えて、裁判所はもう少し警備をしっかりしているのだろうと漠然と考えていました。

 それにしても、自分達の主張をするのにこういう恫喝紛いの憂さ晴らしの類いが当たり前に横行する社会というのはやはり歪だし不幸だと思います。決して健全な社会とはいえません。