武田薫(スポーツライター)

 5月26日の日曜日、テニスの全仏オープンが開幕した。4大大会の第3弾となる同大会の会場はパリ郊外にあるブローニュの森の近くにあり、その地名から「ローランギャロス」と呼ばれる。最大の注目が、女子シングルスの第1シードに座った大坂なおみである。

 昨年の全米オープン、今年の全豪オープンを連続で制覇し、全4大大会連続優勝の「グランドスラム」を達成するチャンスが残る。女子では、シュテフィ・グラフ(1988年)やセレナ・ウィリアムズ(2003、15年)など過去に5人しか達成していない金字塔だ。

 全仏の特徴は赤土のクレーコートである。芝の上で始まったローンテニス(テニスの正式名)もいまやハードコートが主流。ハードコートではパワーもスピードもストレートに反映され、イレギュラーもないから実力がしっかり評価できる。一方、クレーコートは非日常との戦いになる。足元が滑り、パワーが削がれてラリーが続く。天候の影響を受けて球脚は微妙に変化する――。心身ともフレッシュでなければ、とても2週間は勝ち抜けない。

 現在世界ランキング1位の大坂は大舞台に強いのだが、見通しはあまり良くない。4大大会の中でも特に全仏は実績がなく、それよりも全豪オープン優勝以降のツアー成績がパッとしないのだ。ここまで6大会に出場して10勝6敗、一度もベスト4に勝ち残っていない。ナンバーワンとしては物足りない。

 メジャー大会に2度も優勝すれば環境は一変する。そんな「シンデレラ」状態に、コーチ解任、ウエア契約の変更も重なって内面はかなり混乱しているはずだ。最近、彼女のチームに気になる変化があった。

 4月第3週のシュツットガルト(ドイツ)大会から、茂木奈津子トレーナーがチームに復帰した。昨シーズン一緒だった茂木トレーナーは語学堪能で大坂と良好な関係を築き、全米オープンの優勝にも立ち会った。それだけに昨年暮れの解任は意外で、シーズン途中の復帰もまた不思議な人事だ。

 大坂は復帰についての理由を明らかにしないが、こんなことが考えられる。
 
 昨シーズンからの飛躍の立役者、コーチのサーシャ・バインの解任で心配されたのが精神面だった。テニスは8割がメンタル勝負と言われ、大坂のプレーは確かに不安定になったのだが、そんな折、3月のマイアミ大会に姉の大坂まりが推薦出場した。

 なおみが大好きな1歳上の姉は世界ランク340位の現役選手。マイアミはトップ全員集合の大会で姉さんに出番はなかった。推薦出場に何らかの交渉があったのはもちろんだが、姉妹は久々に合流できた。
シングルス準々決勝で勝利して4強入りを果たし、歓声に応える大坂なおみ=2019年4月26日、シュツットガルト(共同)
シングルス準々決勝で勝利して4強入りを果たし、歓声に応える大坂なおみ=2019年4月26日、シュツットガルト(共同)
 大坂なおみは無邪気、無垢、純粋……強さと繊細を併せ持ったところが魅力だけに、周囲は精神面の安定を模索している。姉の推薦出場、茂木トレーナーの復帰はその舞台裏を物語っているだろう。個人競技のテニスは、かようにチームプレーとなったのだ。