2019年05月30日 9:59 公開

2016年米大統領選へのロシア介入疑惑を捜査したロバート・ムラー米特別検察官は29日朝、司法省で声明を読み上げ、ドナルド・トランプ大統領による司法妨害については、罪を犯していないという証拠があったならそう結論していた、司法省方針で現職大統領を起訴するという選択肢はなかったなど、捜査報告書の要点をあらためて説明した。特別検察官に就任して以来、2年間で初めて公の場で発言した。

ムラー特別検察官は約8分間の声明を読み上げ、新たな内容を述べるのではなく、司法省が4月に一部黒塗りの状態で発表した捜査報告書の要点をあらためて強調した。

ロシアによる大統領選介入については、体系的かつ多岐にわたる介入があったと断定した。これに関する捜査で、トランプ大統領の司法妨害があったかについては、もしトランプ大統領が「明らかに罪を犯していないと、自分たち捜査陣が確信できていたなら、そのように結論していたはずだ」と述べた。

さらに、現職大統領を連邦法違反で起訴しないというのが長年の司法省方針のため、自分たちにトランプ氏を起訴するという選択肢はなかったとも述べた。

その上でムラー氏は、「現職大統領を問題行為について正式に追及するには、憲法上は刑事司法制度とは異なる手続きが必要だ」と述べた。これは、大統領弾劾の権限が憲法上、連邦議会に委ねられていることを示唆したものと受け止められいてる。ムラー氏の捜査報告書でも同様に、議会の権限への言及があった。

司法省の記者会見室で登壇したムラー氏は、声明を短く読み上げるにとどまり、記者団との質疑はなかった。冒頭では特別検察官事務所の業務が完了したため、自分は間もなく司法省を辞めて私人に戻ると述べた。声明の終わりには、捜査内容について「これ以上発言することは不適切」だと考えると述べた。野党・民主党が求める議会証言に応じる可能性は否定しなかったものの、「捜査報告書が私の証言」だとして、報告書にない情報を提供するつもりはないと締めくくった。

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ロシア疑惑捜査を「魔女狩り」と攻撃し続け、捜査が終わると「無罪が立証された」と主張していたトランプ氏は、この日にムラー氏の発言を受けて、「ムラー報告書について何も変わらない。証拠は不十分で、それゆえにこの国では、その人間は無罪だ。一件落着! ありがとう」とツイートした。

https://twitter.com/realDonaldTrump/status/1133759237136494592


捜査報告書をめぐるやりとり

ムラー特別検察官は、2016年大統領選でトランプ陣営がロシア当局と結託した疑いや、トランプ氏が捜査を妨害したかについて2年近くにわたって捜査した。その結果、「ロシア政府とトランプ陣営に関係する複数の個人との間に複数のつながりがあることが捜査によって特定されたが、刑事訴追の根拠として十分な証拠ではなかった」、「ロシアの選挙介入行動において、トランプ陣営の関係者がロシア政府と共謀もしくは連携したという事実を確定しなかった」と結論。一方で、大統領による司法妨害については、「大統領の行動と意図について得た証拠から我々は、犯罪行為はなかったと決定的に断定することができない」と判断を保留した。

その上でムラー氏は、現職大統領は起訴できないという司法省方針を認めた上で、三権分立の原則にのっとり連邦議会が大統領を捜査し、場合によっては弾劾することは可能だと報告書で指摘した。

これに対して、トランプ氏に指名され着任したバー司法長官は今年3月に報告書の要旨を議会に報告した際、「特別検察官の捜査で得られた証拠は、大統領が司法妨害の罪を犯したと断定するには不十分だと結論」したと発表。さらに、4月18日にも記者会見で、ロシアによる選挙介入はあったもののトランプ陣営との結託を裏づける証拠はなく、司法妨害についてムラー検察官は判断を避けたものの、自分が司法長官として訴追に相当しないと判断したと説明した。

一方で、その直後に司法省が発表した実際の報告書全文(一部の内容を黒塗り)では、トランプ氏がムラー氏の捜査が自分の大統領政権に壊滅的な打撃を与えると恐れ、ムラー検察官の解任を命令するなど、ロシア疑惑捜査に繰り返し介入しようとした様子が書かれていた。

さらに、司法長官による捜査報告書の発表内容について、ムラー特別検察官が3月末の時点で、司法長官が議会に報告し公表した内容が、自分たちの捜査内容と結論を「十分に伝えていない」ことや、そのせいで「捜査の重要な部分について今では、世間が混乱している」と指摘する、きわめて異例の手紙を司法長官に送っていたことが、下院司法委員会の民主党議員団によって5月初めに明らかになった。

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ムラー発言への反応は

ホワイトハウスのサラ・サンダース報道官は、「報告書は明確に、結託も共謀もなかったと書き、司法省は司法妨害がなかったと確認した。ムラー特別検察官はさらに、バー司法長官は誠実に報告書を扱ったと述べた。2年間を経て、特別検察官は人生の次の段階へ進もうとしている。全員がそうすべきだ」とコメントした。

一方で、複数の民主党議員は、連邦議会が大統領の弾劾手続きを始めるべきだと従来の主張を繰り返した。

2020年大統領選に出馬しているカマラ・ハリス上院議員(民主党)は、「この大統領の責任を問うのは連邦議会の仕事だ。弾劾手続きを始める必要がある」と述べた。

同じように大統領選に出馬しているコーリー・ブッカー上院議員(同)も、「弾劾手続きを直ちに開始する法的および道徳的義務が、連邦議会にはある」とコメントした。

大統領の弾劾手続きでは、下院が弾劾決議案を可決した場合、上院が弾劾裁判を開き審理する。下院は現在、民主党が多数を占めるが、上院は与党・共和党が多数。

こうした情勢で、民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長は、弾劾手続き着手にかねてから消極的だった。今回のムラー声明を受けても、「連邦議会は、権力乱用について大統領を捜査し、責任を問う憲法上の責任を、神聖なものとして堅持している」と述べるに留まった。

下院司法委員会のジェリー・ナドラー委員長(民主党)は、「トランプ大統領による犯罪やうそやその他の問題行動に対応するのは、連邦議会の役目だし、我々はそうするつもりだ」とコメントした。

これに対して同委員会のダグ・コリンズ筆頭委員(共和党)は、「特別検察官の捜査結果について、再び訴訟を起こし(中略)再捜査するのは、この国をさらにいっそう分断するだけだ」として、「次へ進むべき時だ」と述べた。

その一方で、共和党の下院議員として初めてトランプ氏の弾劾を求めたジャスティン・アマシュ議員は、「次は我々、連邦議会の番だ」と話した。

(英語記事 Robert Mueller: Charging Trump was not an option