熊野英生(第一生命経済研究所首席エコノミスト)

 トランプ米大統領が用意している中国への制裁関税第4弾が、日本経済を本格的不況に陥れるのではないかと恐れられている。これまでの制裁で、意識的に除外されてきたiPhoneや日用品に関税率が上乗せされることは、米国の消費者と中国の生産者、そして中国企業に部品や設備を供給している日本企業がダメージを受ける。

 この対立を巡って、「トランプ大統領が理不尽だ」という側面をクローズアップすると、日本には何のメリットもないように感じられる。筆者も、自由貿易の考え方に基づいて、トランプ大統領のことは何一つ支持したくない。

 しかし、今回、改めて米中対立の構図を吟味して、米中貿易戦争は日本企業にも何かメリットがあるのではないかという別の視点を考えてみた。その結果、日本にとってメリットのある展開は、中国にも中長期的なメリットがあると考え方を進めた。

 すなわち、日本企業が長く悩まされてきたのが、数多くの中国の構造問題である。それは、欧米企業でも共通している。最も代表的なのは、巨大な産業補助金の問題である。日本では、経営が悪化した一部の電機メーカーは、経営の失敗と指弾され、メディアからバッシングされる。その一方で、背後に隠れた中国企業の補助金問題はほとんど語られることがない。補助金で支えられた企業と競争すると、日本企業は価格競争でも勝つことができないのだ。

 これまで、中国の成長に期待して進出した多くの日本企業もまた苦労してきた。現地で合弁企業をつくると、そこでは思うように活動ができなかった。行政上の手続きはやや恣意(しい)的であり、海外製品が不利に扱われることもあった。
G20首脳会合に合わせ、中国の習近平国家主席(左端)との会談に臨むトランプ米大統領(右端)=2018年12月1日、アルゼンチン・ブエノスアイレス(AP=共同)
G20首脳会合に合わせ、中国の習近平国家主席(左端)との会談に臨むトランプ米大統領(右端)=2018年12月1日、アルゼンチン・ブエノスアイレス(AP=共同)
 最近は人件費の高騰によって、低コストのメリットも失われてきている。当初の期待が思うようにならなくなってきているのが実情である。従業員の離職率の高さや、労務管理の難しさもある。さらに、現地で人民元で稼いだ利益を外貨に戻して持ち出すことが制限されたり、債権回収が困難であるということもある。これらの課題は、日本とは違う国だから仕方がないという一言で片付けるわけにはいかないだろう。

 今回、トランプ大統領は、特に技術移転の強要と、知的財産権の保護を求めている。米中協議の中で、これら中国特有の不公正なルールの是正が持ち出されていることは、日本企業がこれまで求めてきた問題の是正とも共通している。実は、中国でもこれらの構造問題が是正されることを望んでいる良識派は少なくない。例えば、中国でも知財に絡んだ訴訟は多く、今や中国は米国以上の訴訟大国とされる。こうした課題の解決は、中国企業にとってもメリットになるはずだ。