今回の事件をめぐっては、メディアで「拡大自殺(extended suicide)」というキーワードが使用されている。しかし、この概念は、欧米で研究や議論がそれなりになされているものの、定義や用法が定まらない不明確な概念である。日本語としても、定着せずにあまり使用されていない。

 実は、憎悪や怨恨(えんこん)の対象を殺害したり、無差別に大量殺傷したりした容疑者が自殺する犯行(homicide suicide)から、家族や愛情の対象を道連れにして無理心中すること(murder suicide)まで含まれており、多様な概念でもあることがわかる。

 ただ、こうした現象自体は決して新しいものではなく、日本でも昔から発生していた。「津山三十人殺し」として有名な1938年の津山事件も、近隣の村人約30人を殺傷した後に容疑者は自殺している。

 無理心中を見ても、日本の歴史上枚挙にいとまがない。現代の事例を見れば、先述の宇都宮連続爆発事件や、2015年の列車内で焼身自殺を図り女性客を巻き込んだ東海道新幹線放火事件は、容疑者の残した記録や犯行の状況から考えても、殺人自殺型(homicide suicide)の拡大自殺と呼ぶことができるだろう。

 今回の川崎殺傷事件が、最初から容疑者が自殺する目的を持っていたかどうかは不明であり、今後も判明することはないかもしれない。確かに、自殺が目的で、その自殺に他人も巻き込んで大量殺傷を行ったのであれば、今回の事件は明確に拡大自殺と呼ぶことができる。

 しかし、当初は大量殺傷だけが目的で、それを実行した後に、状況によって感情的かつ発作的に自殺したのであれば、それは拡大自殺には当てはまらないともいえる。容疑者が事前に記した自殺をほのめかすような遺書などが見つからない限り、そのいずれかは推測の域を出ず、判明しないであろう。
爆発物で自殺した元自衛官の焼死体が発見された木製ベンチ周辺を捜索する警察官=2016年10月、栃木県宇都宮市の宇都宮城址公園
爆発物で自殺した元自衛官の焼死体が発見された木製ベンチ周辺を捜索する警察官=2016年10月、栃木県宇都宮市の宇都宮城址公園
 今回の殺傷事件において、被害に遭った児童たちの通う私立カリタス小学校による防犯体制は、記者会見や報道などから分析しても、一般的な小学校の防犯体制よりも十分に手厚いレベルであったことがうかがえる。それでも今回の事件を防ぐことはできなかったわけである。

 小学校の防犯体制が強化されるきっかけとなったのは、2001年に発生した「付属池田小事件」である。大阪教育大付属池田小学校に包丁を持って侵入した男が教室や廊下で児童を襲い、8人の児童が死亡、児童13人と教員2人が負傷した。