田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)
シンガポールで行われたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)における岩屋毅防衛相の中国、韓国に対する対応は、端的に言って悪いシグナルを国内外に伝えるものでしかなかった。
まず、昨年末に起きた海軍艦艇による自衛隊機への火器管制レーダー照射問題において、韓国は自国の責任を認めるどころか、悪質な映像のねつ造や、論点ずらしといった国防・外交姿勢を重ねたことは記憶に新しい。
この問題については、今までの日韓における、取りあえずの安全保障上の「協力」関係に、韓国側から「裏切り」行為が生じたものと解釈できる。日韓の安全保障上の協力関係では、朴槿恵(パク・クネ)大統領時代に発効した日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)や、部隊間交流などがあった。
そのような日韓の「協力」関係は、昨年末の韓国側からの「裏切り」により、日本側はそれに対応する形で大臣クラスの積極的な交流を避けてきた。また、海上自衛隊の護衛艦「いずも」の釜山入港を見送る対応をしてきた。
その流れにもかかわらず、岩屋氏はレーダー照射問題が生じてからというもの、韓国の「裏切り」に一貫して甘い姿勢であった。率直に言ってしまえば、韓国に媚びる発言をしばしば繰り返していたのである。
2月の記者会見でも、岩屋氏は韓国との防衛協力を急ぐ考えを示し、現場交流を再開していた。北朝鮮のミサイルや核兵器の脅威があり、日韓米の協調体制が必要とはいえ、このような岩屋氏の姿勢は合理性を欠いた。むしろ、日韓、そして日韓米の防衛協力を長期的に毀損(きそん)する可能性があるといえる。

日本と韓国の防衛協力が、韓国側の「裏切り」で揺らいでいるのは偶然ではないだろう。文在寅(ムン・ジェイン)政権に代わって、この問題も日本への姿勢が明らかに変化したシグナルととらえるべきだ。