2019年06月10日 12:57 公開

2017年6月14日にロンドン西部で起きた公営高層住宅「グレンフェル・タワー」の大火事の被害者や遺族が、火事の原因とされる建材などを製造したアメリカの3社を提訴することが明らかになった。

この火災では72人が死亡、70人がけがをした。現在も原因調査が続いている。

被害者と遺族の代表弁護士は今週にも、住宅の外装材製造アーコニック、断熱材製造のセロテックス、家電大手ワールプールの3社を、米フィラデルフィア州で生産物賠償責任法(Product liablitiy law)に基づいて起訴する方針。有罪となれば数千万ドル規模の損害賠償を支払うことになる。

BBCの報道番組「ヴィクトリア・ダービシャー・プログラム」の取材に対しワールプールとアーコニックは、火災の調査が継続中のためコメントは控えると述べた。セロテックスからのコメントはない。

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公開調査の第1段階で明らかになった証拠によると、出火元は16階の台所で、火は無可塑ポリ塩化ビニル(uPVC)の断熱材を破壊し、外装材に燃え移ったとされる。

外装材と断熱材は火災の前年の2016年、1000万ポンド(約13億8000万円)をかけた改築の際に取り替えられたばかりだった。

裁判はアーコニックとセロテックスの本社のあるフィラデルフィア州で行われるが、調査で出火原因となった可能性が高いと指摘された冷蔵庫の製造元、ワールプールも同時に起訴される。

ただ、ワールプールについては責任を問うには証拠が不十分だとする専門家もいる。

アメリカでは、民事の損害賠償は事件発生から2年以内に裁判を始めなくてはならない。今回の裁判には少なくとも2社の米大手法律事務所がかかわるという。

「ヴィクトリア・ダービシャー・プログラム」が取材した弁護士によると、アメリカでは安全基準がイギリスより厳しいほか、グレンフェル・タワーで使われていた外装材はアメリカでは高層住宅への使用が禁じられているため、同様の火事は起きないという。

またアメリカで裁判が行われるため、イギリスとは異なり陪審制が取られ、損害賠償額もかなりの高額になることが予想されている。

賠償額を見積もることは難しいが、参考として2013年にビルの倒壊で7人が死亡した事件では2億2700万ドル(約24億6300万円)という判決を挙げる弁護士もいた。

ただし、火災はアメリカではなくイギリスで起きているため、裁判の前に3社がアメリカ国内での審理の是非を問うことは十分に考えられるという。

グレンフェル・タワーの元住民の一人はBBCの取材に対し、100人以上の被害者や遺族がこの裁判への参加を表明していると話した。

一方、現在進められている公開調査や刑事捜査の「妨げ」になるかもしれない、あるいはイギリス国外で損害賠償を求めることへの不安を理由に、この裁判への参加を辞退する元住民も多くいる。

グレンフェル・タワー被害者・コミュニティー会は「アメリカで訴訟を起こしたい人も、そうでない人も支援する」と話している。

安全基準を満たしていなかった可能性

2016年の改装でグレンフェル・タワーに取り付けられた外装はいくつかの素材が重なってできており、そのうち外側の薄いアルミパネルがアーコニック製だった。

アーコニックの親会社は、アーコニックをアメリカの投資会社に150億ドルで売却する予定だったが、この計画は今年初めに頓挫(とんざ)している。火災に関連して課せられる可能性のある賠償額の規模が問題になったとされている。

セロテックスをめぐっては2018年5月、BBCの調査報道番組「パノラマ」が、グレンフェル・タワーに使われていた断熱材が安全基準を満たしていなかったと報道した。取材の中では、セロテックスの安全試験や製品の販売方法が、火災による犠牲者拡大を招いたとの指摘もあった。

セロテックスの親会社である仏サンゴバンは、パノラマが提示した疑惑を証明できるものはないと説明している。

一方ワールプールは、イギリスのビジネス・エネルギー・産業戦略省および同社が個別に行った2件の調査によって、グレンフェル・タワー16階に設置されていた冷蔵庫に欠陥があったという証拠はなく、安全基準も満たしていたことが確認されたと説明している。

弁護士によると、起訴が取り下げになるかどうかの判断に6カ月かかり、その後判決が出るまでにはさらに18カ月かかると見通しだという。

(英語記事 Grenfell residents open US legal battle