重村智計(東京通信大教授)

 「北朝鮮は工作国家である」。この理解がないと北朝鮮の内幕はわからない。北朝鮮の朝鮮アジア太平洋平和委員会の報道官は2日、「正しい決断をすれば、制裁が解かれる。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の選択にかかっている」とした河野太郎外相の発言を非難し、「安倍一味の面の皮は厚い」と述べたと朝鮮中央通信が報じた。

 この委員会も工作機関である。最大の工作機関、統一戦線部の下部組織にあたる。

 工作機関の言動は、日本を揺さぶる工作のために行われる。委員会には報道官の存在さえ疑わしく、担当者としてもレベルが低い。

 だからこそ、日本側はこの「発言工作」に利用されて、動かされてはならない。「日朝首脳会談呼びかけに反発」「安倍晋三首相非難」と日本のメディアが報じるのは間違いだ。この発言からすべきなのは、平壌で何が起きているのかを分析することである。

 発言のポイントは、「安倍一味」の河野外相を非難しただけであって、安倍晋三首相を名指しで批判していないところにある。相手も弱気なのだ。

 では、いま平壌(ピョンヤン)でいったい何が起きているのか。韓国紙が北朝鮮高官の「粛清」を報じたにもかかわらず、数日後には姿を現してしまった。この点については、後で詳しく説明する。

 まずは、衝撃的な事実から伝えよう。ベトナム・ハノイで行われた米朝首脳会談直前の2月22日、スペインにある北朝鮮大使館が、独裁体制打倒を掲げる「自由朝鮮」のメンバーによって襲撃され、重要文書や暗号コードが盗まれた。

 ところが、この大事件が指導者に報告されなかったのである。金委員長は首脳会談当日、ホテルでテレビを見て初めて知ったという。事件から5日も経過してもたらされた事態に、担当者は責任を問われ、処刑された。

 さらに、米国側が首脳会談前に求めた「寧辺(ニョンビョン)に加え、他の核施設の廃棄」を誰も金委員長に報告せず、首脳会談は決裂に終わった。つまり、責任を問われる高官はたくさんいるのである。
2018年11月、参院予算委の審議が中断し、河野外相(右)や秘書官らと打ち合わせる安倍首相
2018年11月、参院予算委の審議が中断し、河野外相(右)や秘書官らと打ち合わせる安倍首相
 北朝鮮では、指導者に都合の悪い報告をするとクビになるため、高官や側近はウソの報告をあげる。また、追及を受けた際の責任逃れの言動にもたけている。逆に言えば、この才能がなければ高官にはなれないのである。

 ゆえに、最近の食糧難と餓死者の増加も報告されておらず、指導者は現実を認識していないといわれる。北朝鮮軍部はこうした状況を「奸臣(かんしん)の横暴」と反発しているという。