これまで、米朝首脳会談や日朝秘密接触を中心になって進めてきたのは統一戦線部だ。外務省ではない。

 外務省には、外交戦略の立案や秘密交渉に携わる権限もなければ、交渉や合意する権限もない。言われたことを伝えるだけだ。交渉は工作機関の統一戦線部か、秘密警察組織の国家保衛省が行ってきた。

 駐スペイン大使館への襲撃事件や米朝首脳会談の決裂、露朝首脳会談の失敗を受け、平壌では米中央情報局(CIA)のスパイ摘発が始まった。捜査を担当したのは、統一戦線部と対立する国家保衛省や軍の偵察総局、保衛司令部だ。

 この過程で、外務省の高官や統一戦線部の幹部が調査対象になった。統一戦線部長を兼務する金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長も調査を受け、長期間姿を消し、統一戦線部長を解任された。

 韓国では、5月末に朝鮮日報が「北朝鮮高官処刑、追放」との情報を伝えた。情報源は韓国の情報機関、国家情報院だ。

 情報機関はなぜリーク(漏洩)に踏み切ったのか。英哲氏や指導者の妹、金与正(キム・ヨジョン)女史の動静が確認できずに困っていたからだ。

 要するに、新聞やテレビに報道させて、北の反応を見ようとしたわけだ。韓国の情報機関がよく使う「あぶり出し」の手法である。

 この作戦に乗せられた北朝鮮は報道の数日後、英哲氏と与正氏が金委員長に同行する姿を映像で流した。韓国情報機関の作戦に北朝鮮がまんまと「引っかかった」ことになる。
2019年6月3日、マスゲーム・芸術公演「人民の国」を観覧した金正恩朝鮮労働党委員長(中央)や金与正党第1副部長(左から2人目)。朝鮮中央通信が4日報じた(朝鮮通信=共同)
2019年6月3日、マスゲーム・芸術公演「人民の国」を観覧した金正恩朝鮮労働党委員長(中央)や金与正党第1副部長(左から2人目)。朝鮮中央通信が4日報じた(朝鮮通信=共同)
 実は、日朝の秘密接触でも韓国の「あぶり出し作戦」が使われていた。秘密接触の事実を確認するために、朝日新聞や東京新聞にリークし、いつどこで誰が接触したかを確かめる手口をよく使っていた。

 ただ奇妙なのは、北朝鮮は韓国の「あぶり出し作戦」とわかっていながら、どうして引っかかったのか。以前なら黙って対応せずに、1カ月後ぐらいに姿を見せて、韓国情報機関に恥をかかせるのが本来のやり方だったはずだ。