2019年06月13日 16:19 公開

2001年9月11日の米同時多発テロ(9/11)の現場に急行した消防士や救命士の多くが、吸いこんだ粉塵などの影響で慢性病を患っているが、医療費を支援する連邦基金が期限切れで終了しそうになっている。支援活動を続けてきた人気コメディアンが連邦議会下院で、公聴会に欠席した議員たちを「恥ずべきことだ」と糾弾した翌日の12日、委員会は延長法案を可決した。

時事問題を扱う人気の政治風刺トークショー「ザ・デイリー・ショー」の前司会者で、その発言が今も注目を集める人気コメディアン、ジョン・スチュワートさんは11日、下院司法委の公聴会に出席。以前から支援してきた9/11の救命活動が原因で病気になった消防士や救命士たちを代表し、医療基金延長を審議する公聴会に多くの議員が欠席したことを、強い調子でなじった。

空席が目立つ委員会に向かってスチュワートさんは、警官や消防士、救命士たちがいかに果敢にテロ攻撃の現場に急行し、職務を果たしたかを強調した後、「あなたたちの無関心が、この人たちにとって何より貴重な消費財、つまりこの人たちの時間を奪っている」と糾弾した。

さらに「彼らは自分の仕事をした。勇敢に、潔く、不屈に、謙虚に」と声を詰まらせ、「あれから18年。あなたたちも自分の仕事をしなさい」と議員たちに畳みかけた。

スチュワートさんが時に涙で声をつまらせながら熱弁するこの映像は、ソーシャルメディアなどを通じて大きな注目を集めた。

被害者補償基金(VCF)を2090年度まで延長する法案を審議していた下院司法委は、スチュワートさんが証言した翌日、法案を可決し、下院本会議へ送った。

被害者の医療費は連邦政府が基金を通じて2020年まで支払うことになっていたが、基金によると、医療費の請求件数が近年急増しているため、財源不足になる危険があるという。

なぜこの事態に

9/11の攻撃後、8万人に上る消防士や警官や救命士、建設作業員や清掃作業員が、被害者を助けようと現場に急行したと言われている。

その大勢は、空気中に飛散したアスベストや鉛、コンクリート粉末を浴び、塵肺(じんぱい)など様々な疾病を発症した。

米疾病対策センター(CDC)によると、攻撃の当日には救命士たちを含めてマンハッタンで約40万人が毒性物質を浴びたり、心身に外傷を負ったと推定されている。

攻撃から7年後の2018年9月の時点で、9/11が原因とされる病気による死者は約2000人とされた。昨年末の時点では、世界貿易センタービルへの攻撃そのもので死亡した人数よりも大勢が、毒性物質を浴びたために死亡したとみられている。

ニューヨーク市警の刑事だったルイス・アルヴァレスさんは11日の公聴会で証言し、9/11関連のがんの治療のため、自分は68クールにわたる化学療法を受けてきたと話した。

「この基金は極楽行きのチケットじゃない。我々が家族の生活を支えられなくなったとき、家族を支えるためのものです」と、アルヴァレスさんは強調した。

連邦議会の対応

被害者補償基金(VCF)は、9/11の直後に設置された。当初は、死亡した2880人以上と負傷した2680人の家族に、合計70億ドルを分配した。

2006年には、ボブ・メネンデス上院議員(ニュージャージー州選出、民主党)とキャロリン・マローニー下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)が、救命担当たちの医療費を補償する「ザドロガ法案」を共同提案。共和党は成立を阻止しようとし、法案は2006年にはいったん否決されたものの、2009年に再提出された後、2010年末に可決され、バラク・オバマ大統領(当時)が翌年1月に署名した。これによって、VCFが復活した。

このザロドガ法案をめぐり議会が紛糾していた2010年12月には、スチュワートさんが自分の人気番組「ザ・デイリー・ショー」で問題を取り上げ、約20分の番組全編を使って法案の成立を訴えたこともあった。

スチュワートさんがこうして法案成立のために精力的に活動したことと、法律の成立とは無縁ではないという見方もある。

当初は、2016年10月まで被害者からの医療費請求を受け付ける決まりだったが、基金は期限は後に2020年12月まで延長された。

ザドロガ法に基づき連邦政府はVCFに73億4000万ドルを拠出。2019年5月31日の時点で、VCFは9/11によって負傷した、もしくは病気になった約2万2500人に計50億ドルを支払った。死亡した850人の遺族も含まれる。

基金は近く資金切れに

VCFを運営するルパ・バタチャリヤさんは11日、議会に対して基金の資金が近く枯渇すると証言した。

バタチャリヤさんによると、2018年には記録的な件数のの補償請求が基金に寄せられ、今年はすでに昨年を上回るペースだという。

2011年から2016年末までの5年間で受理した請求は約1万9000件だったが、2017年~2018年の請求件数は約2万件に上り、今年に入ってからはすでに7700件のの請求が提出されているとバタチャリヤさんは証言した。

こうした状況では、被害者や家族への支払いは7割も削減される恐れがあるという。

公聴会を開いた下院司法委は12日、VCFを常設化し、追加予算を認めるための法案を可決した。具体的な金額はまだ法案に含まれていない。

法案を提出したマローニー下院議員は、「ほかに選択肢がない。この法案は、『決して忘れない』という約束を、私たちが果たすためのものです。この基金を必要とする全ての人が、いつでも必ず支援を受けられるようにするまで、私たちは闘い続ける」と述べた。

(英語記事 Why are sick 9/11 heroes begging Congress for money?