まず、統計面から指摘すれば、そもそもこんな調査対象となった家計の平均収入と平均支出を比較して、それで赤字を算出した金融庁の統計センスを疑う。当たり前だが、家計によって所有している資産は大きく異なる。既に働くのをやめた人たちの間でも、保有資産には大きなばらつきが存在している。

 資産が大きければ、それに伴って支出も大きくなるだろう。株などの金融資産を豊富に持っていて、そこからのリターンが大きければ、それによって買うものも多額になる。

 平均で考えてしまえば、このような富裕層が支出の平均値を大きく引き上げてしまうだろう。ただし報告書でも、あくまで平均の話でしかない、と「注意書き」をしている。

 そもそも、年金だけで老後の生活が「安心」だと考える国民はどのくらいいるのだろうか。年金だけでは不安を感じるので、多くの人は現役時代から貯蓄を行っているのではないか。

 例えば、「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯対象)」(「知るぽると(金融広報中央委員会)」)では、金融資産を保有していない60代の貯蓄額の中央値が1000万円程度だと試算している。60代も、年金だけでは不安だから、これだけの貯蓄をしているとも見ることができる。

 また、いったん退職した60代の人たちが再雇用やバイトなどで働く可能性もあるだろう。あるいは老後の生活のために収支のバランスを見直す人たちもいるかもしれない。
2019年6月、衆院財務金融委員会で謝罪し、頭を下げる金融庁の三井秀範企画市場局長。左は麻生財務・金融相
2019年6月、衆院財務金融委員会で謝罪し、頭を下げる金融庁の三井秀範企画市場局長。左は麻生財務・金融相
 まさに、老後の人生設計は多様である。年金制度はこの多様な生き方を支える一つの重要な柱ではあるが、それだけで、全ての人の老後の支出を満遍なく保障すると考えるのは、単に事実誤認だろう。

 おそらく、金融庁はこの報告書を利用して現役世代からの資産運用をアピールしたかったのだろう。まるで証券会社の下手な営業宣伝もどきが、今回の問題を生んでしまったわけである。