こうして、香港で歓迎されていないことを察した大陸の観光客は潮が引くように香港から離れた。そして、いよいよ香港の大陸への不満は高まっていった。

 2014年に民主的な行政長官選の実現を目指したものの失敗に終わった「雨傘運動」では、大陸の観光客を大口としたビジネス界の人々が民主化運動の「抵抗勢力」となった。だが、今回は目立った動きがなかったのは、そうした変化のためなのだろう。

 さらに今回の政治運動では、質的変化がもう一つ起きた。雨傘運動の半年前、中国との「サービス貿易協定」の承認に反対した台湾の学生らが立法院(国会に相当)の議場を約3週間占拠した「ヒマワリ学生運動」(太陽花学運)との連携が見られたことだ。この雨傘運動の後で、香港独立を意味する「港独」の言葉が、香港の立法会(議会)などでも飛び交うようになったのも特徴だ。

 前述したように、「一国二制度」は中国共産党にとって、ある種の軟化の産物であり、「与えている」という意識が伴う政策である。ゆえに、中国が「一国二制度」を維持するためには越えてはならない一線がある。「港独」は完全に「レッドライン」を越える行為だ。

 その意味で、今回の逃亡犯条例に反対する政治運動は、どこまでを目標とするかが、極めて重要な視点となる。

 そもそも、飲み水と電力を丸ごと大陸に依存する香港が「独立」を口にすること自体が現実的ではない。それでも、もし安易に一線を踏み越えれば、逆に中国が大きな力を使い、一気に「大陸化」を進める事態になることも予測される。
2019年6月12日、香港立法会周辺でデモ隊(手前)と衝突する警官隊(共同)
2019年6月12日、香港立法会周辺でデモ隊(手前)と衝突する警官隊(共同)
 それは単に警察の力を使うという意味ではない。観光客の大幅制限に始まり、輸出入管理のちょっとした厳格化や送金制度の見直しなど、両者の強い結びつきを前提とした見えにくいやり方で香港を干上がらせる方法はいくらでもある。

 だからこそ、漠然とした「中国化」にノーを突きつければいいというものではない。言論の自由を取り決めとしていかに担保するかなど、具体的な何かを獲得してゆくことが大切なのだろう。