吉田潮(ライター・イラストレーター)

 知人男性Aは、物腰の柔らかい二枚目で、着ている服も持ち物も、持ってきてくれる土産物までおしゃれ。話も面白いというか、80年代女性アイドルも妙に詳しい。そのほかにも「これは…」と思う言動が多々あったので、初めて会ったときからゲイだと思っていた。

 Aがゲイであろうとなかろうと人間関係に変わりはないのだが、実は私の女友達がAに恋心を抱いている、という背景がある。余計なお世話と思いつつも、Aに何度か尋ねてみたのだが、「違うよ」と否定した。女友達は女友達で、Aをただ単に煮え切らない異性愛者だと思っていて、諦めきれない様子。女友達には幸せになってほしい(彼女は結婚を望んでいる)ので、Aにその気がないなら気を持たせるなと思ってしまった。まあ、ちょっと背中を押しにくい、貸借の関係がふたりの間にあるので、つい女友達の肩を持ってしまうのだが。

 幸いなことに、今期はLGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニング)、特にゲイのドラマが多かった。なんとなくヒントをもらった気もする。独りよがりだったかなと反省する点もあれば、このふたりにも「新しい人間関係の構築」があるのかなと思ったりして。勝手に決めつけず、視野狭窄(きょうさく)にならないためにも、とても役立ったので感謝している。

 『腐女子、うっかりゲイに告る。』(NHK)は、ゲイであることを友達にも親にも隠している男子高校生(金子大地)が主人公だ。妻子がいる年上の男性(谷原章介)が恋人で、性生活は謳歌(おうか)しているように見えるが、その苦悩は想像を超えるものだった。日常で異性愛者の友人(小越勇輝・内藤秀一郎)や、シングルマザーで育ててくれた母(安藤玉恵)との会話や行動で、「普通の男子」として振る舞わなければいけない息苦しさ。明朗快活だが、腐女子であることを隠しているクラスの女子(藤野涼子)と付き合うことになったのも、「普通」を手に入れたかったからだ。そこには、「ゲイである自分を認められない」苦しみがある。

 腐女子とゲイの交際は、一見「アリ」じゃないかと思わせたのだが、あるきっかけでゲイであることがバレてしまう。クラスメイトに白眼視された金子が、教室のベランダから飛び降りるという衝撃的な展開もあった。実際に同様の事件が起きて、男性が亡くなったことも知っていたので、胸が締め付けられた。ただ、金子は命を取りとめ、藤野や小越の配慮と優しさと素直さに励まされ、生きていく決意を固める。学校内でもゲイであることをカミングアウト(まあ、半ば藤野の演説による暴露「アウティング」なのだが)して、前に進んでいくのだ。
「腐女子、うっかりゲイに告る。」に出演した藤野涼子(大西正純撮影)
「腐女子、うっかりゲイに告る。」に出演した藤野涼子(大西正純撮影)
 最終的に、金子は藤野と別れる。「知らない人たちの中でこれまでと違う生き方ができるかどうか試してみたい」と話し、大阪へ引っ越す。もちろん、谷原とも別れる。谷原は「既婚のゲイ」である自分を鳥でもケモノでもないコウモリに例えて話す。「男しか好きになれなかったが、家族が欲しかったから結婚した。卑怯(ひきょう)と呼ばれても、ゲイであることを隠し通して生きていく」と断言する谷原。金子は寂しさと切なさと諦めを、ないまぜにした表情を見せ、爽やかに別れを告げる(その直後に泣き崩れるのだが)。

 そして、ラストシーンが印象的だった。大阪に引っ越し、大学に進学した金子。初めての授業で自己紹介をする。「僕は…」と話したところで、ドラマは終わった。「僕はゲイです」と言ったかどうかは、視聴者に委ねたのだ。