つまり、デフレが深刻化すればするほど、実質賃金は上昇するのである。デフレの加速は、日本では不況と同じになりやすいので、デフレ不況を加速させるということになる。

 そもそも、実質賃金自体が経済の回復期に複雑な動きをしやすい指標だ。実質賃金の「分子」となる名目賃金は、あくまでも平均賃金なので、雇用が回復して職を得る人が増えれば平均値が下がることが多い。なぜなら、新卒や再雇用といった新しく職を得る人たちは、既に働いている人たちに比べて給料が低いのが一般的だからだ。

 もちろん、経済が安定していく中で完全雇用に達していれば、実質経済成長率や実質賃金なども安定的に増加していくだろう。だが、その実現の経路を示さずに、単に実質賃金を政策目標にすることは「デフレ自慢」になりかねない。

 実際に、立憲民主党の枝野幸男代表は党首討論で「デフレ自慢」をしていた。ただ、枝野氏が民主党政権時代の「反省」を表明したことを、多少評価しなくてはいけない。

 しかし、その「反省」さえも経済政策的には空虚なものだった。枝野氏は党首討論で「私は民主党政権の一翼を担わせていただきました。至らない点がたくさんあったことは改めてこの場でもおわび申し上げますが、経済数値の最終成績は実質経済成長率。10~12年の1・8%、2013年から18年の実質経済成長率は1・1%。これが経済のトータルの成績であると、私は自信をもって申し上げたい」と述べた。

 これに対して、安倍首相は「実質成長の自慢をなされたが、名実逆転をしている実質成長の伸びはデフレ自慢にしかならない」と指摘した。「名実逆転」とは、名目経済成長率よりも物価変動を取り除いた実質経済成長率が高い現象を意味している。
2019年6月、「経済ビジョン」発表に臨む立憲民主党・枝野幸男代表(手前)。奥は逢坂誠二政調会長(春名中撮影)
2019年6月、「経済ビジョン」発表に臨む立憲民主党・枝野幸男代表(手前)。奥は逢坂誠二政調会長(春名中撮影)
 要するに、これはデフレが進行している状況であり、日本では雇用悪化が同時に進行する「デフレ不況」「大停滞」だったと安倍首相は指摘したわけである。立憲民主党の経済政策は、実質賃金の増加を強調しているが、枝野氏による「デフレ自慢」の経済観を合わせて考えると、日本の経済政策を任せることは到底できないように思う。