テレビや各種メディアに出てくる芸人と反社との間につながりがあったということは大問題です。

 筆者が所属している弁護士会の民事介入暴力特別委員会では、特殊詐欺についても研究しています。特殊詐欺では、高齢者など老後の生活のために貯蓄していた金銭を詐取するケースが多く、7000万円以上を詐取された例もあります。詐取された金銭が手元に戻ってくることはまずなく、さらに一度詐取された被害者はカモと認定され、複数回、詐欺被害に遭うこともあるという凄惨(せいさん)な実態があります。

 特殊詐欺の撲滅を目指し、国や捜査機関、企業など、各関係者で対策を講じている中でこのような事件が起こったわけで、芸人や吉本興業の信頼の失墜は避けられないでしょう。

 これまでにも件(くだん)の芸人がMCを務めるバラエティー番組について、スポンサーだった複数の企業がスポンサーから外れたという報道がありました。NHKは今月19日の時点で、忘年会に出席していた芸人が出演する番組の放送を取りやめたと説明しましたが、他局でも今後、番組を打ち切る局が出てくるかもしれません。

 加えて、忘年会に出席していた芸人が出演するCMがお蔵入りすることもあり得ます。CMの場合、通常、①広告主と芸能プロダクションとを仲介する広告代理店の間で仲介契約②広告代理店と芸能プロダクションで広告出演契約、を結んでいます。広告出演契約では、「芸能プロダクションがタレントのイメージを保持させなければならない義務」条項が規定されています。

 今回、吉本興業の芸人が忘年会に出席していた事実について、吉本興業は「タレントのイメージを保持する義務」に違反したとして、広告代理店に損害賠償の支払い義務や、違約金の支払い義務を負うことになります。
安倍首相(中央)は吉本新喜劇に出演した=2019年4月20日、大阪市中央区の「なんばグランド花月」(安元雄太撮影)
安倍首相(中央)は吉本新喜劇に出演した=2019年4月20日、大阪市中央区の「なんばグランド花月」(安元雄太撮影)
 入江さんの契約解消、要はトカゲのしっぽ切りで終わらなかった今回の騒動ですが、今回の吉本興業のプレスリリースを法律家の観点から見ますと、個人的には疑問が残ります。

 それは謹慎の根拠が曖昧であり、芸人の立場がないがしろにされていないかという点です。吉本興業が「反社会的勢力と知らなかったがそのような会合に参加し金銭を受領したこと」をもって時期未定の謹慎処分を下したというのは、非常に曖昧な言い分ではないでしょうか。

 というのも、今回の報道で「金銭を受領していたこと」が決め手のようにフォーカスされていますが、仮に闇営業に対する処分を考えた場合、継続して闇営業をしていたか、金額の規模などの点を考慮し、まずは厳重注意をするのが一般的です。今回のケースを考えれば、単発の闇営業だけをもって謹慎とするのは処分が重すぎます。

 そこには「反社の会合だった」ことが加味されていると推測できるわけですが、一方で「反社とは知らず=関係はない」ことを吉本興業と11人の芸人が口をそろえて表明しています。これこそ吉本興業が最低限守りたいラインなのでしょうが、そのせいで処分の根拠が曖昧になってしまっています。

 また、仮に吉本興業と芸人の間の契約が業務委託契約で芸人が個人事業主だった場合、本来は対等な立場にあるにもかかわらず、プロダクション側から一方的に芸能活動を停止させる処分が行われたことになります。生活に困る芸人やその家族も出てくるかもしれません。
 
 芸人11人を謹慎処分したことをもって、今回の騒動が鎮火するかは甚だ疑問です。近年、吉本興業は政府や自治体など公の仕事に積極的でした。安倍晋三首相が4月に「吉本新喜劇」に出演し、6月6日には吉本所属の芸人が安倍首相の出演御礼のため、官邸に表敬訪問していました。今回の問題がどこまで波及するか気になります。