武田薫(スポーツライター)

 テニスはシーズン真っ盛り、舞台は赤土コートの全仏オープンからドーバー海峡を越え、芝の深緑も美しいウィンブルドン選手権へと移ろうとしている。

 日本勢も、男子は錦織圭、女子は大坂なおみが話題を提供してくれているが、29歳のベテランになった錦織には「そろそろメジャータイトルを」の期待がかかる。全米オープンで、日本選手として初めて4大大会の決勝までコマを進めたのは、もう5年も前のことだ。

 4大大会が1968年にプロに門戸を開いて以降、日本勢はなかなか上位に勝ち進めなかった。90年代に入って、女子は伊達公子が全米オープンを除くメジャー3大会でベスト4に勝ち進んだが、選手層の厚い男子は、松岡修造が95年のウィンブルドンでベスト8に入った1度だけしかなかった。「女性上位」だった日本の勢力図に、錦織圭が飛び出したものだから、ファンも喜んだ。

 錦織のプレーの特徴は素晴らしいボールコントロールにあり、「ショットメーカー」と呼ばれる。テニスで最も難しい技術はボールの方向を変えることだが、錦織はフォアハンド、バックハンドともその切り返しを自在にこなす。ベースライン深く、サイドラインぎりぎりにボールを飛ばして相手を押し込んで振り回すものだから、見ていて面白く、それが彼の人気の大きな理由だ。

 錦織対策として、対戦相手が考えるのが、打ち合いを早めに切り上げることだ。ビッグサーブ一発で決めれば切り返される恐れもないが、錦織はリターンゲームを磨いているし、プレッシャーのかかった試合で、時速200キロを超すファーストサーブがいつも決まるわけではない。全仏オープンのような球足の遅いクレーコートではどうしても打ち合いになる。

 そこで考えられるのが粘りだ。錦織の体格は身長178センチ、73キロ。パワー時代の今、選手の体格は190センチが当たり前で、長丁場の体力勝負になれば、錦織はかなり劣勢になるからだ。さらに4大大会では、ツアー大会より2セット多い5セットマッチだ。しかも、頂点まで7試合あるだけに、省エネ、効率のいい勝ち方が求められる。
全仏オープンテニスの男子シングルス準々決勝、第2セットでポイントを奪われ悔しがる錦織圭=パリ(共同)
全仏オープンテニスの男子シングルス準々決勝、第2セットでポイントを奪われ悔しがる錦織圭=パリ(共同)
 「タンクが空っぽになった頃に上位と当たるのは避けたい」。錦織はそう言っているが、今年ここまでを振り返ると、全豪オープンではフルセットを3試合も戦い、準々決勝のノバク・ジョコビッチ戦では疲労困憊(こんぱい)で途中棄権を余儀なくされた。

 先の全仏オープンでも、王者ラファエル・ナダルと対戦するまでフルセット2試合、それも日没順延で3試合連戦を強いられ、消費時間でナダルとの差は4時間もあった。ほぼ2試合多く戦った勘定のハンディを背負ったわけで、結局1-6、1-6、3-6と、全く見せ場がなかった。