必然、課題は効率性となる。面白い数字がある。5セットマッチは、グランドスラム4大会と国別対抗戦のデビス杯(昨年まで)だけで採用される長期戦だが、錦織はそこで通算23勝6敗と、現役選手で最高の勝率を誇っている。

 体力はなさそうだが、土壇場に強い。「負けそうで負けず、勝ちそうで勝てない」印象がここにある。ハラハラドキドキのドラマチックな試合展開はファンを引き付けるが、ヘロヘロになって、フェデラーやナダル、ジョコビッチという強豪の待ち受ける最終段階で、持てる力を発揮できないのはいかにも惜しい。

 フルセット勝負では、肉体疲労と同じほどに、精神疲労も蓄積されている。危ない場面が幾度も重なれば、緊迫感が揺らぎ、集中力が途切れていく。

 格下相手の序盤戦で無駄をなくすという理屈は、プロ10年の本人も分かっているが、序盤にリードしたところで、ふっと集中力が途切れることは以前から指摘されてきた。ただ、3時間近い試合を通して集中力を維持するなど土台、無理な注文だ。

 野球のピッチングに「出し入れ」という言葉がある。これはストライクゾーンの幅の使い方を意味し、メジャーリーグでは「コマンド」という言葉を使う。制球力をいかに使うか、3ボールまで許されるカウントをどう使うか、捨てながら拾うという「探りの勝負勘」は、天性もあるが、それを意識する余裕ができれば身につくものだ。

男子シングルス準々決勝の第2セット、ラファエル・ナダル(左奥)にゲームを奪われた錦織圭=2019年6月4日、パリ(共同)
男子シングルス準々決勝の第2セット、
ラファエル・ナダル(左奥)にゲームを奪われた
錦織圭=2019年6月4日、パリ(共同)
 錦織は今年の暮れには30歳になるベテランとはいえ、「集中力を出し入れする」までの余裕はまだつかんでいないように感じる。そういうふうに見れば、先はそう暗くない。

 ヘロヘロになって負けてはいるが、故障明けだった昨年のウィンブルドン以降の4大大会ではベスト8、ベスト4、ベスト8、ベスト8。ジョコビッチとナダル以外に、これほどの結果を出している選手はいない。間もなく始まるウィンブルドンは4大大会の中で最も成績が悪いが、このレベルを維持すれば、夏には全米オープンを頂点とした得意のハードコートが待つ。

 今回のウィンブルドンは、一つ錦織の気持ちの「出し入れ」に注目してみたい。