財部誠一(ジャーナリスト)

 正直言って「老後2000万円問題」を真面目に論じることほどバカバカしいことはない。

 そもそもこの「騒動」はメディアが「政府が年金など公助の限界を認め、国民の『自助』を呼びかける内容になっている」などとミスリードしたことが発端だ。新聞、テレビお得意の、一部だけを切り取って問題化するいつもの手法だが影響力は絶大で、今度は「2000万円」という数字だけが一人歩きを始める。

 参院選を目前に控えていた野党にとってはまさに棚から牡丹(ぼた)餅。「年金は100年安心ではなかったのか」と政府・与党を国会で追及した。これがまたとんちんかんな話で、「100年安心」は年金制度の持続可能に対する政治的キャッチコピーだ。そんなことくらい野党も分かっているだろうが、おいしい話である。「2000万円もの資産を自分で貯めろとは何事か」とフェイクニュースの政治利用を始めた。

 もっともここまでの展開は、気分は悪いが、日本社会の日常風景である。本当に驚かされたのはこの後の政府の対応だった。金融庁を所管する麻生太郎財務大臣が報告書を「受理しない」と言い出したのだ。騒動が起こった当初は「遊ぶカネくらい自分で貯めるのは当然だろ」といつもの大雑把な言葉でメディアに反論していたが、公的年金だけでは老後の生活を支えられないと政府が認めるわけにはいかぬと翻意して、報告書を受理しないと言い始めたのである。

 年金だけで老後は安泰などという能天気な人間がいるだろうか。老後のために少しでも貯蓄しておきたいと考えるのが日本人の性癖だ。若い世代は自分たちがとんでもない貧乏くじを引かされたことを明確に自覚しているから、年金に対する期待などはなからない。フェイクニュースに乗じて政府批判をする野党の仕掛けにのってデモで憂さ晴らしをする者もいるだろうが、若者の「公助」に対する期待感は恐ろしく低い。正常な反応だ。
参院決算委員会で立憲民主党・蓮舫副代表兼参院幹事長(右)の質問に答弁する安倍晋三首相=2019年6月10日、参院第1委員会室(春名中撮影)
参院決算委員会で立憲民主党・蓮舫副代表兼参院幹事長(右)の質問に答弁する安倍晋三首相=2019年6月10日、参院第1委員会室(春名中撮影)
 しかし政治は権力闘争だから、ひとたび「老後2000万円問題」に火がつけば、野党はポジショントークで突っ走る。6月19日の1年ぶりに行われた党首討論も野党のパフォーマンスばかりが目立ち、不毛なことこの上なかった。そして揚げ句の果ては麻生財務大臣の問責決議案まで出す始末。脱線国会はフェイクニュースの醸成所と化してしまった。お粗末だ。それを思うと金融庁の報告書の見識の高さががぜん浮き上がってくる。