2019年07月04日 11:41 公開

開催中のサッカー女子ワールドカップ(W杯)フランス大会の出場選手で、同性愛者であることを公言している女性は38人に上る。一方、昨年の男子W杯ロシア大会に参加した同性愛の公表者は……ゼロだ。

この差は何を物語るのか。

LGBT(性的少数者)問題に詳しいスポーツニュースサイト「アウトスポーツ」は、同性愛者だと表明している運動選手の人数を調べている。

その調査によると、24カ国の計552選手が出場しているW杯フランス大会では、同性愛者の比率は約6.9%に達する。

38人という数は、女子W杯における最高記録。それ以前の最高は、2014年カナダ大会の23人だったという。

「同性愛者抜きで優勝は無理」

今大会38人のうちの1人が、アメリカ代表のFWメガン・ラピーノ選手だ。

6月29日のフランス戦では、2得点を挙げてチームを準決勝へと導いた。試合後、6月が「LGBTプライド月間」であることについてコメントを求められると、ラピーノ選手はこう答えた。

「同性愛者、がんばろう!(Go gays!) 同性愛者抜きに優勝できるチームなんてない。前からずっとそうだった。これはまさしく科学そのもの」

スポーツで結果を出すことと、選手がLGBTかどうかの関係性については、延々と議論できるかもしれない。しかし、はっきりしていることがひとつ。ラピーノ選手はこうやって堂々と発言し、何も臆するところがなかった。

男子は引退後に数人

一方、男子ではW杯出場選手に限らず、現役の有名サッカー選手の中にも、同性愛者だと公表した人はいない。

ドイツの元代表トーマス・ヒツルスペルガー氏は2014年、自分は同性愛者だとカミングアウトしたが、現役を引退した後のことだった。

男子選手にも同性愛者はいるはずだが、カミングアウトは難しい。

昨年のW杯ロシア大会で優勝したフランス代表メンバーで、LGBTへの支持を表明しているオリヴィエ・ジルー氏は、仏紙フィガロにこう語っている。

「更衣室は男性ホルモンでいっぱいだ。お互いよくふざけあうし、シャワーは共有だ」

「デリケートなことだが、それが現実だ」

「男にとってカミングアウがどれだけ辛くて大変なことか、理解できる。何年間もがんばってきた人にとっては、本当に挑戦だ」

ジルー氏はこれまでに何度か、ゲイ・バッシングに反対するキャンペーンに参加。LGBTを象徴するレインボーカラーの靴ひもをシューズに使い、試合に出たこともある。

リオ五輪は56人

サッカー以外のスポーツ種目でも、同性愛者だと公表している男子選手は珍しい。

前出のアウトスポーツによると、2016年のリオデジャネイロ五輪では、28種目に出場した1万人超の男女選手で、同性愛者を公言しているのは56人しかいなかった。

とはいえ、サッカーの男女差は際立っている。

「数字からは、女子選手が同性愛を公表し、それについて語るよう励まされていると感じていることがわかる」

英ダラム大学スポーツ運動科学部のステイシー・ポープ准教授は、こう話す。

「一方、男子選手の場合、サッカーは歴史的に『男らしさの要塞』とされてきたし、過去の経験が(カミングアウトに対して)負の認識を生んでいる」

ポープ氏が言う「過去の経験」とは、ジャスティン・ファシャヌ氏のことだ。ファシャヌ氏は1990年、イギリスのトップレベルのサッカー選手として初めて、自分は同性愛者だと公表したが、それから世間に嘲笑され続けた。

スポーツにおけるジェンダーとセクシュアリティが専門の、米ニューヨーク州立大学バッファロー校のスーザン・カーン教授は、「男子サッカーのほうがずっと不寛容だ。同性愛の男性はスポーツに必要な男らしさが足りないと思われているからだ」と話す。

女子選手の場合は、「偏見」が一役買っているとの見方もある。

女子選手はそもそも、「ボールを蹴り回しているような女性には同性愛者が多い」といった偏見など、多くの障壁を乗り越えた上でサッカーに取り組んでいる。その影響で女子サッカー界には多様性を受け入れる文化が育ち、それがカミングアウトしやすい環境へとつながっていると、ポープ氏は説明する。

一方、カーン氏は、他のスポーツでも近年、カミングアウトする女子選手が現れ、社会的な驚きが弱まっていると指摘。女子サッカー選手にとって、自分の性的指向を公言しやすい状況がつくられていると分析する。

LGBT活動家は、同性愛嫌悪の風潮に対するサッカー界の取り組みは不十分だと批判する。差別問題に取り組む慈善団体「Kick It Out(蹴って追い出せ)」によると、2018年のイングランドのスタジアムでは同性愛差別の事例が前年比9%増えたという。

女子サッカー界でも、「女がサッカーをやるなんて」という差別や偏見を多くの選手が経験している。

国際サッカー連盟(FIFA)はかつて、ファンが同性愛差別行動をとった国について、その国のサッカー協会に罰金を科したこともある。たとえば、2018年ワールドカップでメキシコのサポーターたちが、相手チームがゴールに向けてシュートするたびに同性愛差別的な罵声を浴びせたときがそうだった。ただし、FIFAの罰則では、人種、肌の色、言語、宗教、出身による差別は明確に禁止しているが、禁止対象として性的指向を差別理由にした問題行動を明示していない。

サッカー界のこうした風潮を、女子サッカーは変えられるのだろうか?

有力なLGBT権利団体「ストーンウォール」のスポーツ担当、ロビー・デ・サントス氏は、「LGBTを受け入れる包摂性という意味で、女性が先頭に立っているのは素晴らしい。自分らしい自分でいていいんだと支えられた方が、チーム全体のためになる」。