木村幹(神戸大大学院国際協力研究科教授)

 さてさて、これはどう理解するべきなのか。

 7月1日、経済産業省は韓国に関する「輸出管理の運用の見直し」を発表した。内容は大きく二つ。

 一つは、外為法輸出貿易管理令別表第3の国(いわゆる「ホワイト国」)から韓国を削除するための、意見募集手続きを開始すること。この日から7月31日までの1カ月の間、意見が募集されることになる。見直しの効力が発生するのは、この意見募集の結果を受けて以降になる見通しのため、今後の方針についてあらかじめ、アナウンスをした形である。

 二つ目は、特定品目の包括輸出許可から個別輸出許可への切り替え。具体的には、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目が対象となっている。こちらは適用が7月4日からのため、効力が既に発生している。

 問題はこれらの措置の影響をどう見るか、である。第一に考えなければならないのは、そもそもこの措置が該当産品の物流にどの程度の影響を与えるか、である。

 ここでは二つのシナリオが考えられる。報道によれば、該当品目の輸出が包括許可から個別輸出に切り替えられた場合、手続きに3カ月程度かかるとされており、仮に該当企業が品目の在庫を持たない場合、生産の一部が停止する可能性がある。

 とはいえ、仮にこれが単なる包括許可から個別輸出許可への切り替えにとどまるなら、個別輸出許可が認められてしまえば、物流は通常に復することになる。そもそも、これまで韓国に適用されていた包括輸出許可は、限られた特定の国に対する優遇措置に過ぎず、中国やインド、さらにはロシアといったほとんどの国への輸出は、個別輸出許可の下、行われている。
ソウルで開かれた会合で話す韓国の成允模・産業通商資源相(中央)=2019年7月1日(AP=共同)
ソウルで開かれた会合で話す韓国の成允模・産業通商資源相(中央)=2019年7月1日(AP=共同)
 すなわち、この措置だけでは韓国企業には、例えば中国企業に対するものと同等の条件が適応されるだけで、それだけでは致命的な影響は発生しない。そもそもが大きな変更ではなく、ゆえに大騒ぎするようなものではない。それが一部の専門家の意見であり、一つ目のシナリオである。

 他方、同じ措置について、読売新聞は「日本政府は基本的に輸出を許可しない方針で、事実上の禁輸措置となる」と報じ、全く異なる見解を示している。だとすれば今回の措置は、経産省による公式の説明である、包括輸出許可から個別輸出許可への切り替え以上の内容を有することになる。

 この場合、日本政府が中国などの他国とは異なる何らかの基準を、韓国のみに適用していることになる。そうなれば個々の企業への影響は長期化し、より大きくなることは明らかだが、自由貿易の原則を掲げる以上、日本政府は事態を説明する国際政治上の責任を新たに負うことになる。

 そしてそれを万一、徴用工問題における日韓関係の悪化に求めるなら、それは日本政府が自ら、この措置が政治的報復であり、経産省が掲げる安全保障上の理由は「単なる建前」にすぎないと示したことになる。日本側がどのような論理を積み上げても、その論理に内実がなく、国際社会に信じられなければ、国際社会で敗北することになるのは、日本政府がこれまで福島沖水産物や捕鯨を巡る国際紛争で経験したことであり、事態は全く異なる展開を見せることになる。これが二つ目のシナリオである。

 この二つのシナリオのどちらを採用するかで今回の措置は、政治的にも経済的にも全く異なる意味を持つことになるが、日本国内では矛盾した報道が続けられている。