第二に考えなければならないのは、これらの措置による個々の企業活動への影響があることと、それが韓国経済全体に与える影響、例えば国内総生産(GDP)に対する押し下げ効果がどの程度あるかは別の問題だ、ということである。

 例えば、高高度防衛ミサイル(THAAD)配備問題に対して、中国政府が団体旅行客の渡航を制限した際には、観光産業をはじめとする特定の産業に明らかな影響は出たものの、韓国経済全体に与えた影響は限定的なものにとどまった。だからこそ韓国政府はこの問題で中国に譲歩せず、THAAD配備はそのまま続けられた。

 そしてとりわけ、輸出管理の運用見直しに伴う物流に与える影響が、短期間にとどまる一つ目のシナリオの場合、韓国政府の当該産業に対する支援などにより、経済全体に与える影響は吸収されてしまう可能性が強い。韓国政府が事態の展開を座して見守るだけだ、ということは考えにくいからだ。

 現段階において、外資が大きな割合を占める韓国の株式市場において、関連企業の株価はいまだ大きく下落しておらず、マーケットがその先行きに深刻な懸念を抱いている、とは言えない。個々の企業の経営に対するミクロの影響と、経済全体のマクロの状況は区別して考える必要があるのは経済学の基礎である。ミクロな現象の断片のみから韓国経済全体に与える状況を予測することは慎まねばならない。

 とはいえ、それ以上に重要なのは、そもそもこの措置が何のために行われており、その目的は果たしてこの措置により実現に向かうのか、ということだ。これが今回の措置を考える第三のポイントである。
セッション3開始前、韓国の文在寅大統領と握手を交わした後、厳しい表情を見せる安倍晋三首相=2019年6月29日、大阪市住之江区(代表撮影)  
セッション3開始前、韓国の文在寅大統領と握手を交わした後、厳しい表情を見せる安倍晋三首相=2019年6月29日、大阪市住之江区(代表撮影)  
 産経新聞は、今回の措置について「いわゆる徴用工問題で事態の進展が見通せないことから、事実上の対抗措置に踏み切った」と報じている。また朝日新聞は、7月2日の記者会見で菅義偉(よしひで)官房長官が今回の措置を徴用工問題などへの「対抗措置ではない」と述べる一方で、「両国間で積み重ねてきた友好協力関係に反する韓国側の否定的な動きが相次ぎ、その上に20カ国・地域(G20)首脳会合までに満足する解決策が示されなかった」ことが今回の措置に至る背景の一つであることを明らかにした、と報じている。

 既に紹介した読売新聞の記事の「事実上の禁輸措置」という表現をはじめとして、ほとんどの日本メディアの報道は、今回の措置の背後に、徴用工問題といった歴史認識問題により悪化する日韓関係があるという点で一致している。