なぜなら、制裁の結果として生まれた人々の不満が、韓国政府をして日本への譲歩に追いやる方向へ働くとは限らないからである。例えば、先に述べたTHAAD問題に伴う中国の経済制裁は、むしろ朴槿恵(パク・クネ)政権初期には好意的であった韓国人の対中感情を大きく悪化させる方向へと機能した。

 朴槿恵弾劾の結果として登場し、前政権を否定する政策を連発する文在寅(ムン・ジェイン)政権ですらTHAAD配備を継続した背景には、このような中国の制裁の「失敗」による韓国人の対中国感情の変化が存在する。世論の意向に反して政策を実行するのはいかなる政府にとっても大きな困難を伴うことになるからである。

 そして今、韓国に渦巻くのは、日本による突然の「輸出管理の運用の見直し」に対する強い反発である。状況はTHAAD問題に伴い中国が制裁を開始したときと極めて類似しており、韓国世論は日本に対する強硬姿勢に傾きつつある。

 7月4日にリアルメーターが発表した世論調査によれば、日本側の措置に対して「外交的交渉により解決すべき」と答えた人は22%に過ぎず、約46%が世界貿易機関(WTO)への提訴を含む国際法的対応を、約24%は経済的報復措置による対処を求めている。

 注意しなければならないのは、経済への影響を危惧して文在寅政権の「無策」を批判する野党に近い保守系の人々ですら、その結果として日本に譲歩することを求めているわけではないことだ。すなわち、保守的な志向を持つ人々の間でも「外交的交渉により解決すべき」と答えた人は38・5%のみであり、過半数は国際法的対応、または、経済的報復措置を求めている。さらに言えば、この「外交的交渉」の中身には、先に韓国政府が提案して日本政府に拒絶された「財団案」などによる解決も含まれているから、韓国側が外交的に折れて日本側の主張に従うことを求めている人は、実際には極めて少ない計算になる。

 このような中、そもそも対日関係を軽視する文在寅政権が、世論の風向きに反して日本への譲歩に向かう可能性は極めて少ない。頭に入れておかなければならないのは、政治は、経済的合理性に基づいてではなく、政治的合理性に基づいて動く、ということである。仮に韓国経済が日本側の措置により大きなダメージを受けたとしても、それによりむしろ日本側への敵意が高まるなら、政治家にはそれに抗して動く必要は存在しない。与党である「共に民主党」支持者のうち「外交的交渉により解決すべき」と答えた人はわずか5・7%。これでは外交的交渉を始めることすら難しい。

 だとすれば今回の措置により、われわれは本来の目的からますます遠ざかっていることになる。忘れてはならないのは、そもそも経済制裁、それもある1カ国のみによる経済制裁で他国が外交方針を変えることは容易に存在しない、ということだ。例えばそれはアメリカとイランの関係がそうであり、われわれは北朝鮮に対して周辺国と協調して経済制裁を行ったものの、目指す結果を何ら得ていない。だからこそ経済制裁とは他の手段と組み合わせて使うものであり、ただやみくもに用いても相手側の対応を硬化させる効果しか持っていない。
韓国の康京和外相(右)と会談に臨む河野太郎外相=2019年5月23日、仏パリ(AP=共同)
韓国の康京和外相(右)と会談に臨む河野太郎外相=2019年5月23日、仏パリ(AP=共同)
 外交、否、政治に対する評価は本来、何を目的として掲げ、そしてその目的をどう実現したかによってなされるものだ。ナショナリスティックな欲望を抑えて、自らの国益が何であり、それを実現するためにはどうすべきかを真摯(しんし)に考察する。「目的合理性」に基づいた、より冷徹な戦略が必要になってくるだろう。