山岸純(弁護士)

 6月20日付の産経新聞のインターネット記事「保釈率倍増、高まる逃走・再犯リスク 裁判所判断に浮かぶ懸念」や、6月23日付の同ネット記事「保釈倍増で逃走リスク 収容前の不明は全国で26人」などについて、元検事で弁護士の郷原信郎氏などが議論をしておりますので、せんえつながら法曹家の一人として愚論を申し述べさせていただきます。

 この産経の記事では、実刑が確定し、横浜地検が収容しようとした際に逃走した男などの例を挙げ、元検事の方々の指摘などを掲載しながら、全体として「裁判所が保釈を決定する際には、保釈中に逃亡するおそれの有無を慎重にすべきである」旨の意見を述べています。

 これに対し、郷原氏をはじめ元検事の弁護士の方々が、「『人質司法』を是正する動きに水を差すような報道姿勢は許されない」など、「印象操作だ」と痛烈に批判されております。

 たしかに郷原氏がご指摘されるように、今回の記事では、例えば「遁刑(とんけい)者(実刑確定後、収容前に行方不明になる者)」の人数について過去の統計からすれば減少傾向にあることを紹介せず、単に「平成30年末で全国に26人」と表現するなど、読者への「イメージ」を先行させている点は否めません。

 また、後述の通り、「保釈」の原則的な基準は「逃亡するおそれがないこと」ではなく「罪証隠滅のおそれがないこと」なので、逃亡するかもしれないから保釈するべきではない、とも言えないわけです。
小林容疑者が潜伏していたアパートに入る捜査員。階段上、左端は小林容疑者をかくまった幸地大輔容疑者=2019年6月23日、神奈川県横須賀市(酒巻俊介撮影)
小林容疑者が潜伏していたアパートに入る捜査員。階段上、左端は小林容疑者をかくまった幸地大輔容疑者=2019年6月23日、神奈川県横須賀市(酒巻俊介撮影)
 もっとも、今回の記事が取り上げているのは、これまであまり議論されてこなかった「有罪判決(実刑)が確定した人を収監する際の逃亡事件」であり、有罪判決(実刑)という日本における強制力を執行するにあたり、万に一つも起きてはならない失態を指摘している点において的を射ているものと思量します。

 すなわち、せっかく国が相当の予算と優秀な人的資源を投下して犯罪者を検挙し有罪判決を獲得しても、肝心の「刑の執行」の時点で逃れられてしまったのでは、「刑」の目的である①罪を犯した者の教育・更生②犯罪者を隔離することによる安全の確立、などができなくなってしまいます。

 ここで、勾留中の被疑者が逃亡したのであれば、その警察署や拘置所の管理体制が問われるところです。昨年8月に大阪府警富田林署で勾留中だった容疑者の逃走事件がそれです。