2019年07月10日 17:29 公開

イギリスの与党・保守党党首選に立候補しているボリス・ジョンソン前外相とジェレミー・ハント外相は9日、テレビ討論に参加し、欧州連合(EU)離脱やドナルド・トランプ米大統領との関係について議論した。1対1での討論はこれが初だったが、鋭い指摘が飛び交い、両者は時に不機嫌な様子も見せた。

ハント氏は、10月31日のブレグジット(イギリスのEU離脱)期限を守れなかった場合は首相職を退くとジョンソン氏が言明しなかったことについて、「自分の首をかける」覚悟がないのかと批判。一方、ジョンソン氏はハント氏が以前はEU残留派だったことを踏まえて、しょっちゅう「考えを変えられる」のは大したものだとからかった。

また、イギリスのサー・キム・ダロック駐米大使が極秘公電の中でアメリカのトランプ政権は「無能」だと報告していた件については、ジョンソン氏は批判しなかった。その一方で、今年12月に予定されている定年退職まで同大使を留任させるかどうかについては、言明を避けた。

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テレビ討論は民放ITVが主催し、ジャーナリストのジュリー・エッチンガム氏が司会を務めた。ジョンソン氏とハント外相は、200人の観客の前でさまざまな問題について議論した。

イギリス全土16万人の保守党員は今後、郵便投票でどちらが党首にふさわしいかを選ぶ。投票結果は23日に発表される予定で、次期党首は自動的にイギリス首相となる。

与党の党員のみによって現職の首相が決まるのは、イギリス史上でも初めてとなる。

「ジョンソン氏は野心で動いている」

番組冒頭のあいさつのあと、ハント氏はすぐにジョンソン氏のブレグジット政策について批判を展開した。特に、10月31日までにEUを離脱できなければ辞任する用意があるのか問いただした。

ジョンソン氏がこの質問に答えなかったのを受け、ハント氏は、ジョンソン氏は国を率いるためではなく、自分の野心を満たすためになろうとしていると批判した。

また、ジョンソン氏が英紙デイリー・テレグラフに連載コラムを持っていることを踏まえ、イギリスが求めているのはリーダーであって「新聞のコラムニストではない」と指摘した。

さらに、ジョンソン氏の「質問に答える能力」を尊敬していると述べ、「彼が笑みを顔に貼り付けるとみんな、質問が何だったか忘れてしまう。政治家としては素晴らしい資質だが、首相には必要ない」とやゆした。

「首相になるとは、国民が必要としていることを述べることだ。国民が聞きたいことを言うだけでは務まらない」

ジョンソン氏が掲げている富裕層への減税政策についても、ハント氏は「間違いだ」と批判し、「私は人生を通して、保守党は金持ちのための党ではないと訴えてきた」とアピールした。

「敗北主義」

対するジョンソン氏は、ハント氏の「経営者的な」政治のやり方を否定するとともに、特定の問題について頻繁に意見を変える点を批判した。

ブレグジットについては、ハント氏が10月31日というEU離脱期限に「全く真剣に取り組んでいない」「敗北主義者」だと巻き返した。

その上で、ハント氏はクリスマスまでにブレグジットを実現させると約束するべきだと指摘。EUは「はりぼての期限」を真剣には受け止めないだろうと警告した。

「10月31日が期限なら、我々はそれを死守すべきだ。そうすればEUもこちらの準備が出来ていると理解し、必要な協定を結んでくれるだろう」

「ハント氏があと何日、ブレグジットの遅延を望んでいるのか知りたい」

ブレグジットについては、両氏ともEUとの合意なく離脱する可能性を示唆している。しかし、ジョンソン氏はその影響についてより楽観的な意見を持っている。

ハント氏はジョンソン氏が「合意なしブレグジットのリスクを矮小(わいしょう)化し」、「楽観主義を広めている」と批判しているが、ジョンソン氏はこれに対し、イギリスはすでに「敗北主義でお腹がいっぱいだ」と反撃。EUから離脱した後の輝かしい未来を楽しみにすべきだと話した。

また、合意なしブレグジットに踏み切るために議会を停会する案についても、ハント氏は全面的に否定したが、ジョンソン氏は「いかなる案も除外しない」と述べた。

ハント氏が批判した富裕層の減税策については、これは中流層や低所得者への減税政策と一体となった「パッケージ」で、景気回復に効果があると反論している。

トランプ政権との関係

ダロック駐米大使をめぐる論争についてハント氏は、トランプ大統領の批判は不適切なもので、自分が首相になった場合にはダロック大使を人気より早く呼び戻すことはないと話した。

また、テリーザ・メイ首相がブレグジットについて自分のアドバイスを無視し、「独自の愚かな道」をたどったというトランプ氏の主張にも反論した。

「トランプ氏のメイ氏に対するコメントは受け入れられないもので、するべきではなかった発言だと思う」とハント氏が述べると、会場からは拍手があがった。

ダロック氏の駐米大使の任期は、今年のクリスマスまでとなっている。

一方のジョンソン氏は、トランプ大統領は自分の意志ではないところで「イギリスの政治議論に引き込まれてしまった」と話した。ただ、ツイッターでダロック大使を「頭がいかれている」などとこき下ろしたことについては、「正しいこととは言えないのではないか」としている。

ダロック大使の今後についても、自分が首相になった場合に任期満了まで在任させるかの明言を避け、ハント氏に「同情から任期を延ばさないように」と釘を刺すにとどまった。

その上で英米の「特別な関係」の価値を強調し、自分だけが首相としてアメリカで「重要で政治的に繊細な」判断を下せると話した。


<分析>ローラ・クンスバーグBBC政治編集長

ジョンソン陣営もハント陣営も、討論の出来に満足して会場を後にした。

失言の多いジョンソン前外相だが、今回はバナナの皮で転ぶようなことはなく、物議を醸す議題に話題が集中することも避けられた。

一方のハント外相も、ジョンソン氏に会心の一撃を与えることに成功した。

とは言え、開いた口がふさがらなくなるような展開や、この決選投票の見通しを覆すような瞬間はなかったかもしれない。

ジョンソン氏は党首選をリードした状態で討論に臨み、そのままの立ち位置で帰っていった。ハント氏はいつもの慎重な姿勢とは裏腹に、いつでも鋭いエルボーを決められる、攻撃姿勢で持論を展開できることを示そうとしていた。

追うハント氏と追われるジョンソン氏、この立ち位置は変わっていないかもしれない。

ただし、ハント氏は今回の討論だけではジョンソン氏の首相官邸入りを阻止できなかったにせよ、もしジョンソン氏が首相になったとして、その後がかなり大変だろうと示すことには成功した。


(英語記事 Tory rivals clash over Brexit and Trump in TV debate