一口に「義務」といってもその強さには程度がある。ここまでの議論を整理すれば、(1)取得申請の承認、(2)個別制度周知、(3)取得勧奨、(4)取得強制という4段階に大別できる。(1)では不十分というのが男性育休取得義務化論の問題意識であるが、(4)はやり過ぎである。すると、(2)から(3)あたりが実質的な争点になると考えられる。

 民間企業が先行して個別に取り組んでいる男性育休義務化を参照するなら、(3)の取得勧奨を義務化するという話になるかもしれない。しかし、(3)は強く勧奨すれば(4)の強制に限りなく近付いていくし、弱ければ(2)に近づいていく。どのくらいの力加減が適切と言えるのか、気心の知れた個別企業の労使関係を超えた法政策として一律の基準を示すことは容易ではないだろう。

 この隙間を埋めるために、男性育休の必要性について企業と労働者の対話を促すことが重要である。振り返れば、女性にとっても育休が取りづらいという時代はあった。今でもこの問題が解消したとは言えないが、仕事と育児の両立について理解を深める研修や面談といった対話の機会を企業の中につくることで、女性が育休を取りやすい環境を整えてきた。女性が育休を取れるように取得を義務化しているという話を筆者は聞いたことがない。

 最近はそうした両立支援の研修に女性社員の配偶者やパートナーを同伴させる企業が増えているようである。職場結婚をした自社の男性社員だけでなく、他社に勤務する夫にも出席を求めていると聞く。夫婦の役割分担について家庭での対話を促す取り組みと言えるが、職場においても育休を女性だけの問題とする先入観を改める契機になるであろう。

 このような対話のプログラムを開発し、男性育休に関する意識改革が進めば、取得率は後からついてくるに違いない。上述の個別制度周知や取得勧奨の声かけも、労使の対話を促すという文脈で考えることが重要である。
※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ)
※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ)
 要するに、「労働問題は労使コミュニケーションを通じて解決を図る」という基本中の基本に立ち返ることが重要と言える。育休の取りにくさとは企業と労働者個人の個別労使関係の問題であり、女性の育休はまさに労使コミュニケーションを深めることによって取りやすくなった。男性育休についても実効性ある政策を行うためには、この基本に忠実になることが重要である。