戸部田誠(ライター)

 ジャニー喜多川ほど「謎」の人物であり、よく知られた人物は珍しい。

 ほとんどメディアに登場することはないから、彼の人物像をわれわれが知ることは難しいはずだが、バラエティー番組でジャニーズ事務所のアイドルたちが口々に語るエピソードで漏れ伝わってくるのだ。

 そこで語られる「ジャニーさん」は、いつだってちょっとおちゃめ。愛すべきおじいちゃんだ。タレントたちを「YOU」と呼び、突然電話をかけ、唐突に「YOU、やっちゃいなよ」と促す。

 もちろん、テレビでは明かせないような僕たちが知る由もない部分もあるだろうが、それらの語り口を聞いて確かに感じ取れるのは、ジャニーズアイドルから強く愛されていることだ。既に移籍、独立したタレントたちからも変わらずジャニー喜多川への感謝やエピソードが語られるのもそれを物語っている。

 2006年から始まった滝沢秀明主演のミュージカル「滝沢演舞城」は、ジャニー喜多川が作、構成、総合演出を担当した舞台だ。最新技術を駆使し、火や水、バンジー、フライング、マジックなどのド派手なパフォーマンスを盛り込んだものだった。それが2010年からの滝沢秀明自身が演出を担当する「滝沢歌舞伎」につながっていった。

 この「滝沢演舞城」で一度、大きな問題が起きたことがある。最初の年の公演で、上演中に火事が発生し、公演を一時中止せざるを得なくなってしまったのだ。
滝沢秀明氏(イラスト・不思議三十郎)
滝沢秀明氏(イラスト・不思議三十郎)
 この時のジャニー喜多川の対応が彼の哲学をよく表している。彼は総合演出だが、多くの人の前で何かを言うというようなことはめったにないのだという。けれど、この時ばかりは、全役者を集めて言った。