そうした中で、憲政史上最長の政権をうかがう安倍晋三政権はどのように評価されることになるでしょうか。安倍政権の特長は多くの場合、日本の置かれた構造や歴史的経緯の産物です。

 安倍政権は、明らかにベースとしては既成の秩序を維持する側に立っています。社会保障や安全保障、経済政策の内実やスピードは漸進的変化にとどめ、保守的政策に徹しています。

 ドラスティックな改憲を目指さず、徐々に自国防衛を強化しているのも、社会保障支出の自然増への対応以外には大きく財政政策を変化させていないのも、保守であるがゆえの特徴なのです。そうした姿勢への賛否は存在するでしょうが、グローバル化する世界への対応策として、保守にこれ以上を望むことはなかなか難しいでしょう。

 その一方で、現在の自民党は大衆化の進む日本社会の現状を反映して、保守の余裕を感じさせない「左派バッシング」をメッセージの中心に据えた選挙戦を戦っています。これは典型的な「アイデンティティー・ポリティクス」です。

 資源配分を変化させるような実利をめぐる論点でもなく、何か具体的な政策をめぐる論争でもない。功利主義とは異なる次元で存在している「アイデンティティー・ポリティクス」は、日本限定の事象ではもちろんありません。

 既得権の打破のように、動く政治が実現しない場合、人々はアイデンティティーの領域でガス抜きを図ります。新聞などのメディアや識者はとかく、現代は理解しがたい時代だとしがちですが、人間の属性が何かいきなり変化して、そのような政治が登場したわけではありません。
2019年7月14日、神戸市での街頭演説で有権者らに支持を訴える自民党総裁の安倍首相
2019年7月14日、神戸市での街頭演説で有権者らに支持を訴える自民党総裁の安倍首相
 とどのつまり、アイデンティティーの浮上は閉塞感の蓄積によるものでしかありません。アイデンティティー・ポリティクスの台頭による弊害はもちろん存在しますが、それへの本質的な解決策は、アイデンティティーとは無縁の功利主義にこそ存在します。

 合理主義的改革を掲げる勢力が登場しない限りは、日本は停滞の絶望感の中でより極端な勢力が台頭する可能性があります。参院選後は、安倍政権後の日本を見据えながら合理主義的改革勢力を与野党ともに育てていく必要があるでしょう。