小林良彰(慶応大法学部教授)

 自民党が57議席を獲得し、公明党と合わせて与党で改選議席の過半数を超える71議席を獲得した。これは民主党政権直後の2013年前々回参院選よりも議席を減らしているが、3年前の2016年前回参院選よりは議席を増やしている。

 当初は、老後の生活のためには年金だけでは足りず、2千万円の預貯金が必要という報告書が与党にマイナスに働くとみられた。しかし、野党も批判するばかりで、現行制度に替わる実現可能な代替案を示すことができずにいた。このため、参院選直前の投票行動研究会調査(※注)でも年金不足問題の責任は「政府与党にある」より「与党も野党も同じ」という回答の方が多く、対立争点とならなかった。野党にとっては、年金不足問題を参院選の争点にできなかったことになる。

 また、安倍首相が選挙戦でアピールした憲法論議も、公明党が慎重な立場を示したことや具体的な与野党間の論争にはならなかったことで、有権者にはもう一つ浸透しなかった。結局、大きな対立争点を巡る選挙ではなく、これまでの安倍政権の業績を評価する選挙となった格好である。このため、投票率は50%を下回る低投票率となった。

 さて、安倍政権の業績については、安倍総理が5月にトランプ米大統領を国賓として招き、6月には20カ国・地域首脳会合(G20)の議長を務め、7月には韓国への輸出規制強化を打ち出すなど、外交や政治指導力を有権者に印象付ける機会が多かった。特に、韓国への輸出規制強化については有権者の6割以上が賛成しており、韓国に対する政府の対応を支持している。

 ここで、安倍政権の業績評価をみると、財政政策や景気対策については評価するよりも評価しない者の方が多いが、外交や政治指導力になると評価する者の方が多い。これに関連する形で、全体としての安倍政権の仕事ぶりについても評価する者が多くなっている。

 そのためか、党首に対する好感度を見ると、各党の党首の中で安倍自民党総裁が最も高く、日本維新の会の松井一郎代表が続いている。また、政党に対する好感度を見ても、自民党が頭一つ抜け出し、これに日本維新の会、立憲民主党が続いている。党首だけでなく自民党の印象も全ての党の中で最も良い点が特徴である。
演説する自民党総裁の安倍晋三首相=2019年7月20日、東京都千代田区の秋葉原駅前(古厩正樹撮影)
演説する自民党総裁の安倍晋三首相=2019年7月20日、東京都千代田区の秋葉原駅前(古厩正樹撮影)
 このことは、支持者の歩留まりを見ても明らかである。元々、自民党支持者は全体の33%と最も多い上に、その内の87%が参院選比例代表で自民党に投票しており、支持層を手堅くまとめて公明党に次いで高い歩留まりを示している。また、無党派層を見ても31%が自民党投票で立憲民主党投票の22%を上回っている。支持者の数で勝る自民党が無党派層の獲得でも野党第一党より多く、結果として前回より議席を増やすことになった。

 なお、自民、公明、維新の改憲に前向きな三党で、非改選と合わせて参議院の発議に必要な85議席を獲得するかどうかが注目されたが、3分の2には4議席足りない81議席となった。このため、安倍首相は改憲議論自体には反対ではない野党の一部を取り込んで早期の憲法論議を目指す意向であるが、成案を得て発議に至るかどうかが注目される。

 また、憲法改正について有権者の意識を聞くと、「改正すべき」が「改正すべきでない」を上回っており、さらに9条を改正して自衛隊を明記すべきかを尋ねても、「明記すべき」が「現行のまま」より多くなっている。

(※注)投票行動研究会(研究代表者・小林良彰)調査:7月12日~16日、全国有権者対象、有効回収3000