
2019年07月22日 16:34 公開
イギリスのフィリップ・ハモンド財務相は21日、中東のホルムズ海峡で19日にイギリス船籍の石油タンカー「ステナ・インペロ」がイランに拿捕(だほ)された件について、「注意不足ではない」と話した。
BBC番組「アンドリュー・マー・ショウ」に出演したハモンド氏は、政府はアメリカや欧州と緊密に連携してイランの動きに対応していると説明した。
しかし、与党・保守党内からは今回の拿捕はイギリス政府の「大失態」だという声も挙がっている。
この件をめぐっては、テリーザ・メイ首相が22日に緊急治安閣僚会議(COBRA)を開く予定。また、イギリス政府は国連安全保障理事会に対し、イランの動きは「受け入れられず、非常に事態を悪化させる」ものだとする書簡を送った。
ステナ・インペロには、インド人、ロシア人、ラトヴィア人、フィリピン人の計23人が乗船しており、イランのプレスTVは、乗組員は「取り調べ」のために船から降ろされたと報じている。
また、革命防衛隊系の国営ファルス通信は、ステナ・インペロが拿捕された際の動画を公開した。
「あらゆる外交手段で解決を」
ハモンド財務相は「アンドリュー・マー・ショウ」で、イギリス政府は事態解決のために「あらゆる外交手段」を模索していると話した。
また、制裁についてはすでに金融制裁などを実施しているだけに、これ以上の追加制裁として何が可能かは不透明だと述べた。
一方、同じ保守党のイアン・ダンカン=スミス元党首はBBCの取材に対し、イギリス政府の対応に疑問を投げかけた。
ダンカン=スミス氏は、2週間前にイギリスがジブラルタル沖でイランの石油タンカーを拿捕したのを受け、イランが報復を示唆していたと指摘。ペルシャ湾を航行するイギリス船への警告と、事態をもっと深刻に受け止めるべきだったと批判した。
「これは大きな失態で、政府は早急にこの件について回答すべきだ」
ダンカン=スミス氏によると、米政府がイギリス船の航行を支援すると申し出ていたものの、英政府がこれに応じなかったのだという。
また、トバイアス・エルウッド国防次官は民放スカイのインタビューで、世界中でイギリスの国益を守るには英海軍は小さすぎると説明。一方で、イギリス船の護衛を怠ったわけではないと話した。
イランの革命防衛隊は、ステナ・インペロを拿捕する前に英護衛艦「モントローズ」と交信していた。モントローズはこの時ステナ・インペロから離れた場所におり、拿捕を阻止できなかったという。
公開された交信記録では、イラン側の船はモントローズに対し、安全保障上の理由から検査が必要だと話している。イランの国営通信によると、ステナ・インペロは漁船の通信に応えず、この漁船と衝突した後、拿捕された。
しかしイギリスのジェレミー・ハント外相は、イラン側は「明らかに国際法に違反して」イギリス船をオマーンの領海で拿捕し、イランの港へ強制的に航行させたと批判した。
一方、イランのジャヴァド・ザリフ外相はツイッターで、イギリスは「アメリカの経済テロの道具になるのを止めるべきだ」と述べた。
また、イランはペルシャ湾とホルムズ海峡の安全を保障しており、一連の動きは「国際海洋法に則っている」と強調した。
駐英イラン大使もイギリスに対し、事態を悪化させないよう警告している。
ステナ・インペロ拿捕について米ホワイトハウスは、イギリスは1週間で2回もイランによる「激化する武力の標的にされた」と非難した。
フランスとドイツの両政府も、イランに対しステナ・インペロを解放するよう求めている。
高まる緊張
ホルムズ海峡では、米政府がイランとの核合意から離脱後に対イラン制裁を強化して以降、イラン、アメリカ、イギリスの間で緊張が高まっている。
イギリスとイランの間では今月4日にジブラルタル沖で、欧州連合(EU)制裁に違反してイランからシリアへと原油を輸送していたとみられるタンカー「グレース1」を英海兵隊が拿捕した。
ハント外相は「グレース1」の拿捕は合法だと説明したものの、イラン側は「海賊行為」と非難し、報復としてイギリスの石油タンカーを拿捕すると警告。英政府は今月9日に、ペルシャ湾のイラン領海を航行するイギリス船への脅威を最高レベルの「危機的」に引き上げた。
さらに11日には英国防省が、ペルシャ湾を航行中のイギリスの石油タンカーをイランのボートが妨害しようとしたと発表した。イランはこの際、イギリス船を拿捕しようとした事実はないと否定した。
18日には米政府が、ホルムズ海峡で米海軍艦艇に接近したイランのドローン(小型無人機)を撃墜したと明らかにした。トランプ大統領によると、ドローンが米海軍の強襲揚陸艦「USSボクサー」に914メートル強の距離まで接近したため、「防衛措置を講じた」という。
一方でイラン側は、このドローン撃墜に関する情報はないと反論している。
6月には、イラン革命防衛隊(IRGC)がイラン上空で、アメリカの偵察ドローンを撃墜した。これについてイランは、米軍がイラン領空を侵犯したと主張した。