武田薫(スポーツライター)

 7月21日に行われた国際陸連主催のダイヤモンドリーグ第10戦(ロンドン)の100メートルで、24歳の小池祐貴が日本歴代2位に並ぶ9秒98で4位になり、20歳のサニブラウン・ハキーム(9秒97)、23歳の桐生祥秀(9秒98)に次いで、日本選手では3人目の9秒台選手が誕生した。

 小池は桐生と同学年で高校時代は桐生の後塵(こうじん)を拝してきた選手だが、慶応大に進んでから200メートルで力を伸ばし、社会人1年目の2018年、ジャカルタのアジア大会で金メダルを獲得している。

 来年の話をするのは気が早いが、オリンピック代表の選考基準は既に決まっていて、日本選手には厳しい条件になった。これまでは標準記録を突破すればよかったが、これからは今季から導入された世界ランキングが必要になる。ランキングの基となるポイントは国内では足りず、世界選手権を頂点にダイヤモンドリーグに参戦して順位を争わなければ稼げない仕組みだ。そこに参戦するためには記録がカギになる。

 オリンピック標準記録は100メートル=10秒05、200メートル=20秒24。記録の有効期間は2019年5月1日から2020年の6月29日だから、小池、サニブラウンは記録面ではOK。桐生はどこかで突破しなければいけない。今季、100メートルで10秒を切ったスプリンターは日本の2人を含めて14人いる。ここ5年では38人が9秒台で走り、世界記録9秒58は10年前の2009年にウサイン・ボルトが出したもの。歴代まで広げると127人が10秒の壁を破っている。いまさら騒ぐなという感じである。

 今季のランキングは、現時点(7月23日)でサニブラウンが世界9位、小池が11位、桐生が18位、山県亮太(27)が56位、多田修平(23)が61位。オリンピックの決勝に進めるのはサニブラウンだけという現実だが、4人を組み合わせた4×100メートルリレーになると俄然(がぜん)、金メダルが狙える位置になるのだから不思議だ。

 日本の男子400メートルリレーは2004年の北京、16年のリオデジャネイロオリンピックで銀メダルを獲得している。17年の世界選手権でも銅メダル、今回のダイヤモンド第10戦でも、急きょ、組み替えたメンバーで37秒78で英国に次いで2位に入っているから、抜群の安定性を世界に実証済みである。理由は実に単純だ。
ダイヤモンドリーグ第10戦の男子400メートルリレーで、第3走者の桐生(右)からバトンを受けるアンカーの白石=2019年7月21日、ロンドン(共同)
ダイヤモンドリーグ第10戦の男子400メートルリレーで、第3走者の桐生(右)からバトンを受けるアンカーの白石=2019年7月21日、ロンドン(共同)
 日本代表の2度の銀メダル・メンバーには1人も9秒台選手がいなかった。個々の走力では劣るのに4人目が走り終われば勝っているのは、走力以外の要素、バトンパスの差しかない。ドミノ倒しのように進む精緻なアンダーハンドパスが勝因なのだ。