リブラは今後、金融サービスにおける規制強化、個人情報管理における規制強化を、クリアしていかなければ「世界共通通貨」の道はない。

 まず、既存の金融当局はグローバルなリブラ取引をどう管理・規制するのか。特に、銀行口座のない人同士の送金機能に関して、銀行や当局は脱税や資金洗浄といった犯罪に利用されるという理由から、リブラへの規制強化に乗り出す。

 もう一点、金融ビジネスの面から見て、クレジットカード機能はリブラ保有者の信用リスクをどう判断するのか。リスクに対応するための貸倒引当金、保険料率など加味すれば、手数料はどの程度軽減され、ユーザーフレンドリーになるのか。

 そして、最大の課題は、政治や安全保障に密接に関わる。2016年のブレグジット(EU離脱)と米大統領選挙において、英国のケンブリッジ・アナリティカ(CA)社がFBユーザー8700万人の個人情報に不正アクセスし、世論操作を行ったことが、米司法省によるロシア疑惑問題の捜査を通して明らかになった。CA社は、表向きは「選挙コンサルティング会社」だが、クオンツ系巨大ヘッジファンド創設者が資本を提供し、トランプ大統領の元側近、スティーブン・バノン前米首席戦略官も社員に抱えていた。

 CA社は心理戦の軍事技術をマスデータに取り入れ、トランプ勝利のために、ビッグデータの集積、データマイニング(知識採掘)などの革新的技術を政治利用し、個人を狙い撃ちする「マイクロ・ターゲティング」を実施した。具体的にはフェイクニュースの拡散を含む情報操作を行い、相当の効果を実証した。

 モラー特別検察官による捜査の過程で、CA社は姿を消した。しかし、CAの手法はさらに磨きをかけて受け継がれている。具体的には個人情報のハッキングや、悪質なフェイクニュース拡散、世論操作やプロパガンダの手口は、ポピュリズムの増長を助けている。

 その上に「世界共通通貨」リブラがマネーの新たな経路を提供することになれば、個人の政治信条や経済活動といった全てのプライバシーが丸裸にされて、ある特定の政治目的を持つグループによって集められた個人情報が加工され、操作される。加えて、国家間の外交機密の漏洩(ろうえい)や偶発的な軍事衝突、国庫からの資産の略奪といったさまざまな安全保障上の脅威に発展する可能性もある。
2019年7月、米議会で証言するフェイスブックのリブラ事業の責任者マーカス氏(ゲッティ=共同)
2019年7月、米議会で証言するフェイスブックのリブラ事業の責任者マーカス氏(ゲッティ=共同)
 つい先日、FBのCA社をめぐる個人情報漏洩に関して、米連邦取引委員会(FTC)はFBに50億ドル(5400億円)という巨額の制裁金を科した。今後FBに対する信認が揺らぎ、リブラのビジネスモデルが実現しなければ、FBそのものの存続すら危ぶまれるのではないか。